ワスレナグサ のバックアップ(No.53)

ながれのきしのひともとは、
みそらのいろのみづあさぎ、
なみ、ことごとく、くちづけし
はた、ことごとく、わすれゆく。

ムラサキ科ワスレナグサ属の多年草。正式な和名として「ワスレナグサ」と呼ばれる種は学名Myosotis scorpioidesであるが、本種の観賞用としての流通は少なく、
一般にワスレナグサとして知られるのは、ノハラワスレナグサ[M. alpestris]やエゾムラサキ[M. sylvatica]、及びその交配種などであり、これらの総称が「ワスレナグサ」と考えても差し支えないだろう。
春から初夏にかけて小さく可憐な花を咲かせ、色は鮮やかな空色のほか、白、ピンク、紫、黄など多様。５枚の花弁の中心には黄色か白の目を持つのが特徴である。
ヨーロッパを中心に北半球の温帯から亜寒帯に広く分布し、またニュージーランドにもいくつかの自生種が確認されている。日本にもエゾムラサキが自生するほか、近年輸入された西洋種の帰化が見られる。
冷涼な気候を好み、耐寒性は強いが暑さに弱い。本来は多年生もしくは二年生の宿根草だが、日本では寒冷地や高地を除いて夏の暑さで枯れてしまうので、園芸では一年草として扱われる。
学名の"Myosotis"はギリシャ語の"myos"（ハツカネズミ）と"otis"（耳）から。細長い葉が多毛で柔らかく、ネズミの耳に似ていることに由来する。
またの名を「藍微塵（あいみじん）」とも。特に俳諧ではこの名がしばしば使われるようだ。「わすれなぐさ」は６文字で使いづらいからね

ワスレナグサ（勿忘草）の名は「忘れるなかれ」という意味だが、このいかにも曰くありげな名は、次のようなドイツの伝説に由来している。
ある時、花騎士ルドルフとその恋人ベルタがドナウの川辺を歩いていると、空色の小さく可憐な花が咲いているのを見つける。
愛する彼女のためにその花を摘んでこようと、ルドルフは岸を降りていくが、花を手折った瞬間、鎧の重さで足を滑らせ、川に落ちてしまう。
最後の力を振り絞って花を岸に放り投げると、"Vergiss mein nicht!"（私を忘れないで）と叫び、ルドルフは急流に飲まれ消えていった。
ベルタは生涯恋人のことを忘れないように、彼の最後の言葉をこの美しい花の名前とした。以来彼女は亡き恋人のことを片時も忘れず想い続けたことから、この花は友愛と誠実の象徴とされた。
この伝説から、ドイツ語ではワスレナグサのことを"Vergissmeinnicht"と呼び、英語でも"forget-me-not"と呼ぶ。日本語の「勿忘草」も、これらの表現を訳したものである。
他にも、かつて神が動物や植物に名前をつけていた時、この花に名前を付け忘れていたことに気づいた神が
「こんなに美しい花を忘れていたなんて！絶対にこの花を忘れることがないように“勿忘草”と名付けよう」と言ってこの名前をつけた、という話もある。
とにかく逸話には事欠かない美味しい花であり、それ故かワスレナグサは詩や小説、歌などのモチーフとしても人気が高い。