ツキミソウ のバックアップ(No.3)

富士には、月見草がよく似合う

ツキミソウは、アカバナ科マツヨイグサ属に属する多年草です。
メキシコ原産で、江戸時代末期に観賞用として日本にやってきて、その見た目と夕方に咲いて朝には散ってしまう儚さが日本人の心をくすぐったのか、人気が集まりました。
しかしこの花は多年草ではありますが、環境によっては1,2年程度で寿命を迎えてしまう他、群生ではないため、日本では野生化しませんでした。
そのため、現在の日本ではツキミソウは主に鉢植えで流通していています。

花は6月から9月頃に咲き、先ほど紹介したように夕方に花が咲いて朝には散ってしまいます。
花は夕方の咲き始めの頃は白色なのですが、朝形萎む頃には薄いピンクになるという変わった特徴を持ちます。
ツキミソウの背後に咲いている花をよく見るとわかりますが、雌しべは先が四つに分かれていて、更にその周りに雄しべが八本あるという形になっています。
雌しべは夜には月の光に照らされて蛍光色に光るという性質があり、更に幻想的な雰囲気を醸し出しています。

ところで先ほど日本では野生のツキミソウは存在しない、と話しましたが日本では一般的にはツキミソウは「待宵草(マチヨイグサ)」と呼ばれる花を指すことが多いです。
野生のツキミソウ、と呼ばれるものは大体このマチヨイグサ、もしくはオオマツヨイグサの方です。

どうしてそのような間違いが流通してしまったのかというと、最初の言葉にあります。
この言葉は太宰治の作品「富獄百景」に出てくる言葉で、文字通り富士山には月見草が似合う、と言っているのですが先ほど話したとおり野生のツキミソウは日本ではありません。
前後の文章から考えるにこの花はマチヨイグサではないかと言われていて、それを太宰治が間違えたのではと考えられています。
マチヨイグサもツキミソウも夕方に花が咲いて朝に花が散るという点では同じですが、花の色がマチヨイグサは黄色なので、ツキミソウとは異なります。

もうちょっと小話をすると、おそらく団長の中には「待宵草ってなんぞ?宵待草じゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。実はこれもとある人物が関係しています。
竹久夢二、と呼ばれる人物をご存知でしょうか。「黒船屋」などで知られる有名な画家です。この人は詩人としても有名であり、とある流行歌でこのように歌っています。

待てど暮らせど来ぬ人を　宵待草のやるせなさ　今宵は月も出ぬさうな

竹久夢二がどうして間違えたのかは謎ですが、この歌が流行した事がきっかけで「マチヨイグサ」は「ヨイマチグサ」として民衆に知られるようになりました。
しかし、今でも植物学的には正しくは「待宵草」なのです。