最後に『日本の聖母の寺』その内陣のおん母マリア。穂麦に交じつた矢車の花。光のない真昼の蝋燭の火。窓の外には遠いサント・モンタニ。
キク科ヤグルマギク属の一年草。地中海沿岸を原産とする。
ヤサグルマヤグルマソウと呼ぶこともあるが、ユキノシタ科の同名の植物が存在していたり、
同名の人物がやさぐれたりしていて、ややこしいことこの上ないので、最近ではヤグルマギクに統一されつつある。
その花はユニークかつ美しく、一輪に見える鮮やかな青い花は、幾つもの小花を放射状に咲かせたものである。
矢車とは、鯉のぼりの先っぽでカラコロ回っている飾りのこと。花期も端午の節句重なるので、花の咲き方を矢車に例えてヤグルマギクと呼ぶ。
園芸用には八重咲き種が人気で、それぞれの小花がさらに八重咲きになるため、一層華麗な印象を与えてくれる。
色も青色の他に白、赤、紫などの系統があり、とてもカラフルである。
英名では"cornflower"と呼ぶように、原産地ではもともと麦畑に生える雑草である。やや多湿に弱い程度で、華美な姿に似合わずかなり丈夫でもある。
日本にやってきたのは明治時代だが、その強健さ故に早い段階から野生化していたようであり、やはり麦畑の中にぽつりと咲く姿を見ることができる。
麦穂に交じって揺れる青は、ヨーロッパ人にとっては郷愁を誘う原風景とも言うべきものだが、その一方で麦農家にとっては恐るべき天敵である。
大量の種をばら撒き、ぐんぐんと旺盛な成長を見せるヤグルマギクは、順調に勢力を拡大すれば、なんと麦の収穫量を5~9割も減らしてしまうのである。
おまけに太い茎は恐ろしく丈夫であり、鎌(sickle)で刈り取ろうとするとしばしば刃こぼれを起こすほどで、農家からは"hurtsickle"の名で忌まれてもいる。
夏、ヤグルマギクの種子を発芽前に死滅させるために潅水を行い、生き残った芽はなるべく若いうちに除草剤でジェノサイドるのが効果的な防除策である。あゝ無情。
ヤグルマギクの深みのある優しい青色はcornflower blueと呼ばれ、HTMLで色名指定することもできる。
コーンフラワーブルーは最高級サファイアの美しい青色を表現する語でもあり、宝石愛好家にとっては憧れの色である。
"bachelor's button(独身者のボタン)"という呼び名もある。実はこれセンニチコウさんとお揃いである。おばさんどうs「今、私を笑いましたね」
ドイツでは"Kaiserblume(皇帝の花)"とも呼ばれ、国花になっている。これは初代ドイツ皇帝ヴィルヘルム一世がこの花を愛し、自らの紋章としたことから。
彼が幼少の頃、プロイセンにナポレオン率いるフランス軍が侵攻した時、母親のルイーゼ王妃は子供たちを連れてベルリンを逃れ、麦畑に身を隠した。
この時、王妃は子供たちを慰めるために、麦畑に生えていたヤグルマギクを手折って花冠を作り、幼き王子たちをあやしたという逸話がある。
古代エジプトのファラオ、ツタンカーメンの王墓にヤグルマギク、ハス、オリーブで作られた花輪が供えられていたという話も有名である。
ヤグルマギクは彼の妻、アンケセナーメンの愛した花であり、彼女が死せる夫に手向けたのだとも言われているが、詳細な事実関係は不明である。
でも、もしそうだったらロマンチックだよね。嫌いじゃないよそういうの。妄想は精神生活を豊かにするって誰かが言ってました。
古くからハーブとしても利用されている。属の学名"Centaurea"は、ギリシャ神話の半人半馬の怪物、ケンタウロスのことで、
ケンタウロス族の賢者ケイローンが、ヤグルマギクの薬効により傷の治療を行ったという逸話にちなむ。
ヤグルマギクの花弁には消化促進、消炎、収斂、利尿作用などがあり、アントシアニンを含むため眼精疲労に効果があるとされている。
ヤグルマギク自体は風味が薄いので、様々なハーブティーにブレンドすることができる。疲れ目にはアイブライト、喉の痛みにはエキナセアなどをどうぞ。
何よりも美しい青色が魅力である。花弁を生のままサラダに散らして彩りを添えたり、乾燥させてリースやポプリに利用するのもよい。
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