ハコベラ のバックアップ(No.16)

カナリヤの　餌に束ねたる　はこべ哉

ナデシコ科ハコベ属の総称。単にハコベ、ハコベラという和名を持つ種は存在せず、多くの場合コハコベやミドリハコベなどを指す。
「ハコベラ」は古い呼び名であるが、有名な七草の歌でもこの名が使われるため、春の七草として数える場合にはハコベラと呼ぶのが慣例である。

道端や空き地など、どんな場所でもごく普通に見かけられる、生命力旺盛な野草である。
やや赤みを帯びた茎を這い気味に伸ばし、小さく柔らかな葉を無数に茂らせ、地表を覆う姿をよく見かける。
3-9月頃にかけての長い間、小さな白い花をつける。花弁は10枚に見えるが、よく見るとV字に深く裂けた5枚の花弁からなっている。
殺戮ピザカッターめいた恐ろしい武器は、この花をモチーフにしていると思われる。どうしてこうなった。

万葉集にも歌われるほど、古くから日本人に馴染みのある野草であるが、ヨーロッパ原産の帰化植物である。
稲作とともに大陸から日本へ渡り、有史以前に定着した史前帰化植物の一種とされている。
日本のみならず世界各地に帰化が見られ、北半球の温帯を中心に非常に広い範囲に分布する。
一説には、有史以前から日本に帰化しているのはミドリハコベであり、コハコベは明治以降に入ってきた種ともされるが、
両者は専門家ですら区別が曖昧になりがちな種であり、至る所で混乱に次ぐ混乱を巻き起こしているため、あまり深く考えないのが良いだろう。
ところで、七草の節句に生鮮食品売り場などで売り出される七草セットに入っているのは、ほとんどがコハコベなのだそうだが、
「昔の日本にはコハコベなんてなかった。このハコベラは出来損ないだ、食べられないよ」
などというある学者の見解が地方新聞に掲載されたために、生産農家の間に混乱を招いたというちょっとした事件があった。
食えれば同じじゃん、という寛大な考え方も、時には必要だと思います。あふん。

春の七草のひとつということで、もちろん食える。春先の柔らかい葉と茎を摘んで食用とする。
クセのない素直な味わいは、まさに野草、草そのもの。定番の七草粥はもちろん、おひたし、あえもの、汁もの、天麩羅などでもどうぞ。
人間以上に動物たちの好物でもあり、小鳥やウサギ、カメなどの餌として需要が高い。英名でも「鶏の草」を意味する"Chickweed"と呼ばれる。
ペットの餌用に自分で採取するのはもちろん、栽培したりする人も少なくない。なぜかインコ飼いに異様に多い気がする。母数がデカいだけか？
栄養面ではカルシウムなどのミネラルを豊富に含み、薬用にもなる。漢方薬として、産前、産後の浄血、催乳などに処方される。
江戸時代には歯磨き粉の原料としても利用されていたそうで、1713年刊行の「和漢三才図会」では次のようなレシピが紹介されている。

采茎葉絞用汁和鹽盛蚫貝焼之復入汁焼也七度焙乾毎用摺歯洗眼可也
　（茎と葉を採って汁を絞り、塩と混ぜる。これをアワビの貝殻に載せて水気が飛ぶまで焼く）
　（乾ききったらまた汁を加えて焼く、これを七度繰り返す。これで歯を磨く。眼を洗うこともできる）