ポピー のバックアップ(No.13)

Amapola, lindisima amapola,
No seas tan ingrata y ámame.
Amapola, amapola
Cómo puedes tú vivir tan sola.

ポピーという語の示す範囲はやや曖昧である。広義にはケシ科もしくはケシ亜科の植物を総称してポピーと呼ぶこともあるが、狭義にはケシ属のヒナゲシのことを指す。
特に日本においては、ケシというと麻薬というイメージが強いためか、ヒナゲシを中心に、近年雑草化してそこら中に進出しつつあるナガミヒナゲシ、
モンツキヒナゲシ、オリエンタルポピー（オニゲシ）、アイスランドポピー（シベリアヒナゲシ）などの栽培品種をポピーと呼ぶ傾向がある。
花期は初夏、薄い花弁４枚がお椀状になった花を咲かせる。品種によって様々な色があるが、オレンジ赤、黄色、白、ピンクなどの明るい色が多い。
花が終わると芥子坊主と呼ばれる特徴的な形状の果実を結実する。内部には非常に細かな種子が大量に詰まっている。小さなものを芥子粒と例えるのはこのためである。
ケシの未熟果からは、モルヒネやヘロインなどの強力な麻薬成分が得られるため、法律により栽培が禁止されているが、
麻薬成分を持たない「ポピー」は栽培が認められており、観賞用としてごくごく普通に売られている。まぁヤバイやつにしても探せば普通に生えているのだけど。
しかし、何せ見た目では区別がつきにくいことも多いので、山野に自生している違法なケシを綺麗だからと持ち帰って育ててしまうケースもよくある。
更には、業者が違法なケシを合法ポピーとして誤って販売してしまい、リコールがかかるという事件もたまーに起こる。
尚、このような脱法ポピーを誤って購入し、栽培してしまった場合でも、意図的に麻薬を得ようとしたわけではないのならばセーフである。
育てたケシは駆除され、当局からの指導が入ったりはするかもしれないが、罪に問われることはないので、安心して育ててよい。

ヒナゲシは別名をグビジンソウ（虞美人草）といい、これは秦末期の楚国の武将、項羽の愛人であった、虞美人という女性に由来する。
紀元前２０２年、項羽率いる楚軍は劉邦率いる漢軍に敗退、垓下という地の防塁に立てこもった楚軍を漢軍は厳重に包囲した。
ある夜更け、四方を囲む敵陣から楚国の歌が聞こえてきた。これを聞いた項羽は、楚の兵が漢軍に降伏したのだと悟った。いわゆる「四面楚歌」の故事である。
もはやこれまでと、項羽は最後に虞美人へと歌を贈り、それに応えて、虞美人は舞を踊った。

虞や、虞や、若を奈何んせん

愛する女ひとりをも救えない無力さを嘆きながら、項羽は涙ながらに虞美人に刃を突き立てた・・・あるいは、虞美人が自刃したともいわれている。
彼女を葬った墓には翌夏、赤いヒナゲシの花が咲いた。人々はこの可憐な花を虞美人の生まれ変わりと信じ、虞美人草と名付けたのだという。

イギリスを中心に、アメリカやカナダなどのいくつかの国では、赤いポピーは戦争の犠牲者の象徴とされ"Remembrance poppy"と呼ばれている。
ポピーの仲間にはナガミヒナゲシのように繁殖力の強いものも多いため、戦争により荒れ果てた土地では、死者の骸の周りにポピーが咲き誇るといわれてきた。
第一次世界大戦中、ジョン・マクレーというカナダの詩人が、戦友の死を悼んで書いた「フランダースの野に(In Flanders Fields)」という詩が
イギリスのパンチ誌に掲載されると大きな反響を呼び、以来赤いポピーが戦没者の象徴として用いられるようになった。

If ye break faith with us who die
We shall not sleep, though poppies grow
In Flanders fields.

英語圏では第一次世界大戦を偲ぶ詩としてよく知られているらしく、プロパガンダなどにこの詩の一節と赤いポピーのイラストが頻繁に用いられる。
第一次世界大戦の終結を記念する１１月１１日のリメンブランス・デーでは、至る所で戦死者を悼む造花の赤いポピーを見ることが出来る。

ケシの未熟果に含まれる物質が強い鎮痛作用を持つことは古くから知られており、紀元前3000年のメソポタミアでも薬用としてケシが栽培されていたことが知られている。
ケシから取られる麻薬で有名なアヘンとは、ケシの未熟果の表皮に浅い切り込みを入れると出てくる乳液状の物質を掻きとって集め、乾燥させた黒い粘土状の半固形物のことである。
アヘンは約10%ほどのモルヒネを含み、精製なしに強い鎮痛の薬効があるが、過度の服用は幻覚症状などを引き起こし、中毒に到る恐れもある。
イギリスが三角貿易によってイギリスで生産したアヘンを清に売りつけ、それに反発した清とアヘン戦争を起こしたことは有名である。
1804年にはドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナーが、アヘンから鎮痛物質であるモルヒネを始めて分離した。なお、モルヒネは史上初めて薬用植物から分離されたアルカロイドである。
モルヒネは負傷した軍人の疼痛緩和のために広く用いられ、それにより多くの兵士がモルヒネ依存症に陥った。
ただし、モルヒネは用法を守れば依存症を起こさないため、現在でもモルヒネは末期がん患者の鎮痛や軍隊の応急処置に用いられている。
また、モルヒネには分子構造がよく似たヘロインとコデインという物質がある。
ヘロインは依存性の極めて強い麻薬であり、現存するあらゆる麻薬の中で最も強力な快感と多幸感をもたらす一方で、重篤な副作用と禁断症状をもたらす「薬物の王者」の代名詞を持っている。
コデインは逆に薬効が弱く、鎮痛、鎮咳、下痢止めの市販の薬剤に用いられている。ただし、大量に服用し続けると中毒や依存症を引き起こす。
このコデインから密造されているのが悪名高いロシアの麻薬「クロコダイル」である。