ライラック のバックアップ(No.91)

　　　　　　枯れたはずのライラック 咲いてるよ
　　　　　　　　　　　　　　　　君の声が届かなくなっても
　　　　　　枯れたはずのライラック 咲いてるよ
　　　　　　　　　　　　　　　　多分これが最後だとしても

モクセイ科ハシドイ属の落葉低木。ムラサキハシドイ（紫丁香花）という和名があるが、ほとんど使われることはない。
ヨーロッパから東アジアにかけて広く分布し、日本にもハシドイという仲間が自生するが、
特にバルカン半島原産のSyringa vulgarisという種とその栽培品種をライラックと呼ぶことが多い。
フランスで品種改良された歴史から、フランス語の「リラ」という名で呼ばれることも多い。親しみを込めてリラちゃんって呼ぼう。
特に豪奢な八重咲きの品種はフランスで作出されたもので、今でもフレンチ・ライラックと呼ぶことがある。
ヨーロッパ原産のため日本の蒸し暑い気候は苦手だが、北海道を中心に北国では盛んに栽培されている。
札幌市の木にもなっており、ライラックの花が咲く５月中旬ごろに毎年、北国の遅い春を喜ぶ「さっぽろライラック祭り」が開催される。

関東以南でも栽培は可能だが、ある程度耐暑性のある品種を選び、西陽が当たらないように植え場所に注意すると良い。
ちなみに、ヒメライラックと呼ばれる中国原産の近縁種は比較的暑さに強く、樹高もそれほど伸びないため育てやすい。
ライラックの苗木は早く花を咲かせるために、イボタノキというモクセイ科の低木を台木にして接ぎ木されていることが多いのだが、
このイボタノキは非常に生命力旺盛な植物であり、台木にされた状態でもどんどん芽を出して成長しようとするので、
台木のイボタノキばかりが成長してしまい、接ぎ穂にしたライラックの方が枯れてしまう、という事態に陥ることがある。
おれはライラックを育てていたと思ったら、いつのまにかイボタノキを育てていた。な…何を言ってるのか分からねーと思うが…
公園の植木などでも、ライラックの名札が掛かっているがどう見てもイボタノキ、なんてことは割とよくある。
イボタノキには本当に気の毒なことだが、台木から生えてきた芽は逐次刈り取ってしまおう。

花は本州で４～５月頃、寒い地方では５～６月頃で、小さな花を房状にわっさりと咲かせ、甘い香りがある。
ギリシャなどでは開花期がイースターと重なるため、イースターにおいて重要な花になっている。
ライラック色と言うぐらい淡い紫色の花というイメージが強いが、白い花を咲かせるものも多い。
ちなみにライラック色はバイセクシュアルの女性の象徴でもある。その意味を聡明な団長諸兄に説明することは愚にもつかぬであろう。
他にも赤や青、ピンクなどがあり、園芸用では濃い色の花弁に白い縁取りが入るという変わった品種もある。
花の色によって花言葉が異なり、「友情、思い出」はライラック共通の花言葉である。
紫では「初恋、愛の芽生え」、白では「無邪気、若き日の思い出、青春の喜び」などの意味があり、いずれも愛の象徴とされる。
花弁は通常4枚だが、稀に3～6弁の花を咲かせる。5弁のライラックはラッキーライラックと呼ばれ、
誰にも言わずに黙ってこの花を飲み込むと、愛する人が永遠に心変わりをしないと言われている。

甘ったるいエピソードが多いライラックだが、一方で不吉な花として忌まれることも多い。
ヨーロッパでは白いライラックの花は不幸を呼び寄せるから、家の中に入れてはいけないとされている。
イギリスの古いことわざでは"She who wears the lilac will never wear the wedding ring"
つまり、ライラックを身につける女性は結婚できない、とまで言われており、
かつてはライラックの花を贈ることは婚約破棄の申し出を意味したという、まるで花言葉と正反対の扱いを受けている。
この一見不可解な対照は、次のような言い伝えによるものかもしれない――

――イギリスのハートフォードシャーという田舎での出来事である。
ある貴族の男がこの村に出かけた時、一人の村娘を見初めて結婚を申し込んだ。
娘は訝しんだが、男があまりに熱心に娘の元へ通いつめたため、彼女は男を信用し、婚約を受け入れた。
しかし、程なくして男の心は華やかな都会の貴族の娘へと移り、愛を誓い合った村娘のことなど忘れてしまった。
あっけなく裏切られ、純潔を踏みにじられた娘は、傷心のあまり自らの命を絶ってしまう。
娘は村の教会に葬られ、生前の友人たちによって、墓前には山のようなライラックの花が供えられた。
翌朝になると、不思議なことに、鮮やかな紫色をしていたライラックは、すべて純白に変わっていたという。
今でもハートフォードシャーの小さな教会の墓地では、純白のライラックが咲いているそうな。
ライラックの花言葉は、青春の甘い初恋ではなく、若き日の過ちを意味しているのかもしれない。