季節が頬をそめて過ぎてゆきました
サクラソウ科シクラメン属の多年草。秋から春にかけて赤やピンクの花を咲かせ、冬の花の代名詞でもある。
原種はイスラエルなど地中海沿岸に自生するが、日本で目にするのはその栽培品種である。
日本への伝来は明治時代に遡る。地中海原産のシクラメンは日本の湿潤な気候に馴染まず、栽培方法の模索や品種改良など、試行錯誤が繰り返された。
その甲斐あってか、現在では様々な品種が登場し、鉢植えとしては日本でも最も栽培されている植物のひとつにまでなっている。
シクラメンの栽培品種はC. persicumという原種から改良されたものが大半で、花色、花形ともに豊富なバリエーションがある。
花弁の形で分類すると、よく見られる大輪の「パーシカム咲き」、花弁の縁が縮れている「パピリオ咲き」、フリル状になる「フリンジ咲き」
花弁の縁に細い切れ込みのある「ロココ咲き」や「ラッフル咲き」、雄しべが花弁に変異した「八重咲き」などなど。
シクラメンの品種改良に関して日本は先進国であり、特にミニシクラメンなどについてはパイオニアでもある。園芸でも小型化は十八番なんです。
シクラメンの語源はギリシャ語で「円、螺旋、旋回」等を意味する"kyklos"から来ている。
"kyklos"という語は英語の"cycle"の語源であり、シクラメンの綴りも"Cyclamen"。言葉が円のように繋がっている様も、またシクラメンに相応しい。
球根から伸びた葉が鉢植え周りを回る様とか、丸い球根の形からとか、花が落ちた後に茎が螺旋状に丸まるからとか、由来には諸説ある。
しかし日本語では「死」「苦」を連想させるとして、病院へのお見舞いにはタブーという一面も。もちろん濡れ衣もいいところなのだが。
日本への伝来当初「ブタノマンジュウ」という和名が与えられたそうだが、現状を見るにどうも流行らなかったらしい。せやろな。
これは"sowbread(ブタのパン)"という英語での俗称を和訳したものなのだが、
当時の日本人はまだパンにあまり馴染みがなかったため、代わりに饅頭の語をあてたのだという。
ブタのパンという呼称は、野生のブタがシクラメンの球根を掘り返していることがよくあり、その形がパンに似ていたことからだそうな。
一方で花弁の様子を篝火に見立て「カガリビバナ(篝火花)」と呼ぶこともある。この差は一体何なのか。
「夜に燃える篝火みたいな、そんな強い人に」はこれが元ネタ。団長の劣情の炎は昼も夜も地獄の業火の如く猛々しく燃え盛っていますけどね。
「クセなんです、下を向くの」と言っている通り、シクラメンは下を向いて咲く。
イラストでは上を向いているように見えるが、実は花弁が裏側へ大きく反り返っているため、そう見えるのである。
原産地の地中海沿岸では、シクラメンの咲く冬は雨季にあたるため、上を向いて花を咲かせると、おしべについた花粉が濡れてしまう。
シクラメンは下を向いて咲くことで、大事な花粉を雨から守っているのだ。決して内気なだけというわけではないのである。
「うつむいて咲くシクラメン」には、次のような伝説も残されている。
イスラエル王国第三代国王、ソロモン――前王である父ダビデの築いた国を継ぎ、王国を最盛期へ導いたとされる、旧約聖書に名を残す賢王。
そのソロモンが国王に即位したばかりの頃の話、自然の草花を愛していた彼は、王冠に花の意匠を取り入れようと考えていた。
彼は野に咲く花々に、王冠になってくれないかと交渉するのだが、プライドの高い花達に「誰がお前の王冠になどなるものか」とことごとく断られてしまう。
ほとほと疲れ果てた王が岩場で休んでいると、岩陰から小さな花が顔を出し、落ち込む王を優しく励ましたのである。
その優しさと可憐な姿に心を奪われたソロモンが、是非その姿を王冠に使いたい、と懇願すると、その花――シクラメンは、はにかみながらも快諾したのだった。
ソロモンが大いに喜び、感謝の言葉を口にすると、シクラメンは嬉しさと恥ずかしさのあまり、可憐な顔を俯けてしまったという。
かくして、恥ずかしがり屋のシクラメンは賢王ソロモンとともに、イスラエル王国の民に広く愛されることとなった。
今でもシクラメンはイスラエルの国花に定められ「ソロモンの王冠」と呼ばれ親しまれているそうな。
――ソロモン王の死後、部族間の統一を失ったイスラエル王国は、北イスラエル王国とユダ王国とに分裂してしまう。
アブラハムの子イサク、イサクの子ヤコブ、そのヤコブの12人の子らを祖とする12支族を強引にまとめ上げていた統一王国は、
ソロモン王の死によって、蓄積されていた幾つもの歪みがついに亀裂となり、その巨体を軋ませながら崩壊したのである。
混乱と緊張の中でクーデターが頻発し、更にアッシリア帝国と新バビロニアの侵攻を受け、かつて栄華を極めた王国は滅亡の一途を辿ることとなる。
紀元前597年、バビロン捕囚の際にエルサレム神殿は破壊され、ソロモンの王冠も他の様々な宝物とともに強奪されていった。
蹂躙され、荒廃した国土を見て、シクラメンはひどく心を痛めた。心優しいソロモン王と彼の愛した美しい王国は、もう何処にもないのかと。
そして、エルサレムに王を迎え、あの王冠を再び見るまでは、決してこの頭を上げることはない、と誓ったのだった。
時は流れて21世紀――王の帰還を待ちながら、シクラメンは未だにその顔を俯けて咲いている。
そんなシクラメンの花言葉には「切ない私の愛を受けてください」というものもある。
もしウサギを飼育している団長がいたら、決してシクラメンを愛兎に食べさせたり、ウサギの行動範囲に置かないでいただきたい。
根どころか花や葉にもウサギを中毒させる物質がある上、ウサギは吐き出すことができないのでシクラメンの毒をそのまま取り込んで苦しむ事になる。
シクラメン以外にもアサガオやジャガイモ、アイビー、モンステラなども有毒なので、ウサギと暮らす団長は家の周りにある植物をなるべく把握しておくことを強くお勧めする。
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