It all returns to nothing, it just keeps tumbling down, tumbling down, tumbling down
It all returns to nothing, I just keep letting me down, letting me down, letting me down
マンチニール(Manchineel / 学名:Hippomane mancinella)とは自然界が生み出したバイオテロ殺戮兵器……もとい、トウダイグサ科の樹木。
或いは木の形をした殺意の化身、もしくは植物のフリをした死神である。
北~南アメリカを原産とするこのテロ兵器…じゃなかった、樹木は主にマングローブ林や砂浜に生育。
根も頑丈な為、砂浜や土壌が崩れるのを防いでくれる役割も持つ。いわば天然の防風林。
時期が来ればリンゴを思わせる見た目の甘い香りのする果実を実らせる。
名の由来もずばり「小さなリンゴ」という意味合いで、別名を「ビーチ・アップル」とも。
砂浜に沢山転がるマンチニールの果実を見ているとタチが悪いことにとても美味しそうに見えてくる。
さて、ちょいちょい穏当ではないワードが出ているが、お察しのいい方ならもうおわかりだろう。
この植物、ドクニンジンとかスイセンとかトリカブトとかキョウチクトウとかの比ではない、有毒植物界でも最凶最悪の存在なのだ。
どうしようもないウザったさの代名詞がワルナスビなら、ひたすらに有害な毒草の代名詞はある意味コレ。
まず当然の様に全草有毒。根っこの端から葉っぱの先まで全て毒。毒のない場所がそもそも存在しない、毒が形を持ったような特性を持つ。
樹液や樹皮にはアレルギー性の炎症を引き起こす物質が含まれ、少しでも肌に触れようものならウルシ以上にかぶれてしまう。
それどころか、水疱や焼け爛れた様な痕すら出来てしまい、激痛と猛烈な痒みのダブルパンチによって地獄の苦しみを味わう羽目になる。
雨宿りにこの木の下に避難したら、雨水に溶け出した毒によって体中が炎症を起こして悶え苦しむ事例も多々見られる。
果実については毒がこれでもかというほどに凝縮されており、一口かじるだけで口の中は燃えるような激痛を訴え、喉は腫れて呼吸困難となり、胃腸などの消化器はズタズタにされる。当然、丸々食べようものなら助かりはしない。
落ち葉や枯れた木であれど燃やせば煙とともに毒をばら撒き、強烈な毒ガス兵器として周囲を無差別攻撃する。
少しでも煙が目に入れば失明する危険性すら孕んでいる。
全てが毒、どこを取っても毒、何もかもが毒。
その凶悪さは「世界一危険な木」としてギネスブックに載せられている程。
古来からこの木の恐ろしさは知られており、矢毒や毒の罠に用いられたり、一部の先住民は罪人をこの木に縛り付けて放置するという残酷な処刑方法も用いていた。
だが、毒物だろうが加工したりすることで有効活用したり食べたりする、この世で最も欲深く狡猾で諦めない生物……要するに人間はこんな有害の具現たる様な植物からも有用性を見つけ出した。
それが「材木としての活用」。いやそれもう自殺行為だろと言いたい人もいるかもしれないが、時間をかけて天日干しを等を行えば毒を抜くことは可能である。
竜巻の多い南アメリカを中心に生息してるお陰でマンチニールは軽い上に頑丈な性質を持っており、毒さえなんとかしてしまえば材木としては有用なのである。
カリブの大工や職人は好んでマンチニール材を扱っており、建材や家具の素材の他、船を作るのにも用いられている。
また、マンチニールの生える区域に生息するイグアナには毒性が通用せず、ムシャムシャと実を普通に食べられる。
さらに、木そのものを巣にすることで外敵から身を守っており、マンチニールを「自分たちを守る最強の要塞」と「自分たちだけが食べられるとっておきの食糧」として活用している。
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