Ask him to reap it with a sickle of leather,
Parsley, sage, rosemary and thyme,
And gather it up with a rope made of heather,
For then he'll be a true love of mine.
ヘザー(heather)もしくはヒース(heath)は、困ったことに色んな植物の総称である。
通常、ツツジ科のエリカ属とカルーナ属のことをこのように呼ぶが、更にダボエシア属、イワヒゲ属あたりまでをざっくりと含むこともある。
スコットランドでは、エリカやエニシダの群生する乾燥した荒れ地のことをヒースランド、または単にヒースと呼び、これらの植物はそんな土地によく生えているのである。
厳密にはヒースがエリカ属、ヘザーがカルーナ属を指すらしいが、この辺は英語話者ですら曖昧っぽいので、あまり気にし過ぎないほうが良いだろう。
イングランドでの呼び名がヒースで、スコットランドではヘザーだとか、ヘザーとはヒースの花のことだとか、ヒースの複数形がヘザーだとか、なんか色んな話がある。
結局花騎士ヘザーはいったい何者なんだというと、花言葉から判断して「カルーナ・ブルガリス」で間違いないと思われる。(エリカの花言葉は「孤独」「博愛」「裏切り」など)
ちなみに、この花にちなんだ人名をつける場合、男性ならヒース、女性ならヘザーと名付ける。そういう意味でも、ヘザーの方が花騎士的に都合が良かったりする。
このカルーナ・ブルガリスはシベリア、ヨーロッパ、北アフリカなど広い範囲に分布する常緑性低木で、
特に北イングランドからスコットランドにかけての地域で象徴的な花である。
園芸などではヘザーでなく「カルーナ・ブルガリス」もしくは単に「カルーナ」で扱われることが多い。
樹高は10cm-60cm、細かく枝分かれして小さなうろこ状の葉をつける。(混同されがちなエリカは葉が針状になる点で区別できる。)
枝の先端近くに小さな粒状の花をたくさんつけ、小さい花びらが萼(がく)にすっぽりと隠れるように咲く。花色は白、ピンク、赤紫色など。
主な開花期は夏。冬に花を咲かせるものもあり。冬になると葉は黄色や赤に紅葉して非常に美しい。
ツツジ科カルーナ属はブルガリス種、1種のみ。和名ではギョリュウモドキ(御柳擬)とも呼ばれる。
カルーナの名前はカルネイン(掃く)からきており、枝をほうきにしたところに由来する。
高木の育たないような悪環境でも気丈に育つ樹木・・・・、かと思いきや、
寒さには強いものの暑さに弱いので、日本では夏にどれだけ涼しい場所で管理できるかが、カルーナの管理の要、とのこと。
(セリフの「暑くてバナナから移住してきた」という部分もこの辺りからかと思われる)
更に言うと過湿を嫌い、水をやり過ぎると根が腐ったり、酸性の土じゃないとダメだったりと、
何かと日本での生育には気を付けなければならない点が多数ある植物で注意が必要。中級者向け。
古くから染料や薬用ハーブ、家畜の飼料、蜂蜜の蜜源植物などとして、人々と深い関わりを持ってきた有用植物である。ノルウェーでは国花でもある。
古代ゲール族はこれをヘザーワイン、というお酒にして愛飲したという。
またそのヘザーワインを元に作成されたリキュール「アイリッシュ・ミスト」は、ヒース(ヘザー)の花で香り付けされた混成酒であったといわれている。
現代のアイリッシュ・ミストとドランブイにもヒースの花から取った蜂蜜(ヘザー・ハニーと呼ばれる)が使われていたりする。
(※ドランブイとはモルト・ウィスキーをベースに作られる、リキュールの1種。ウィスキーに、蜂蜜、ハーブ、スパイスなどを配合して作られる。)
イギリス・スコットランドでは、このハーブが土中に堆積してできる泥炭(ピート)がウイスキーの風味づけに利用される。
ピートは石炭の一歩手前といえるもので、草木やコケ類が分解が不十分なまま、地中で長い年月をかけて変質したものである。
約千年で15cmほどしか堆積しないらしい。
園芸用土のピートモスもピートの一種で、ミズゴケなどを主原料とする。ヘザーの土に混ぜてあげると、故郷の土に近づけられるだろう。
ウィスキーの製造過程においては、麦芽(モルト)を乾燥させるためにピートを焚く。
このときのピートは数千年から長くて1~2万年を経たものが燃料として利用される。
麦芽が燻されることで、スコッチウィスキーに特有のスモーキーフレーバーを生み出すのである。
ピートの燃焼効率はあまり良くないのだが、この独特の風味を生み出すために、わざわざ昔ながらの製法を守り続けている。
また、ホップを育てるには寒すぎるスコットランドでは、ビールの香り付けにもヘザーを使っていたりと、何かとお酒に縁が深い花である。
ウィスキーは長い年月を経て世に出てくるものが多いが、
その製造過程で使われているピートもまた、それ以上の長い年月を経て出来たものであることを忘れてはいけないだろう。
筆者もスコッチウィスキーが大好きなので、長い間ピートを作ってきたこの植物には畏敬の念を禁じえない。
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