ラナンキュラス のバックアップ(No.16)

All around the buttercups, one two three
If you want a pretty maid, just choose me

イラストの花を見て、黄色いバラの品種かな？と思った団長も多いのではないだろうか？わたしです＾ｑ＾
ところが所属国家からも分かる通り、それは誤りである。ラナンキュラスはキンポウゲ科キンポウゲ属の学名Ranunculusのことだが、
園芸業界でラナンキュラスと言った場合、そのうちの一種であるハナキンポウゲ[R. asiatics]を中心とする園芸品種群を指すものと思って良い。
従って、バラというよりはアネモネやフクジュソウの親戚であると言った方が適切であろう。
園芸品種には八重咲きのものが多く、一見カップ咲きのバラと見分けがつかないことも多いが、原種の一重のものは確かにアネモネに似ている。
バラとラナンキュラスを簡単に見分けるには、葉に注目するとよい。バラはごく普通の広葉だが、ラナンキュラスはヨモギのように細かく裂けた葉をもつ。

ラナンキュラスという名は、ラテン語でカエルを意味する"rana"に指小辞"-culus"がついたもの（つまり「カエルちゃん」的なニュアンス）だが、
これは葉の形がカエルの足に似ているからと言われる。（カエルの棲むような湿地帯に自生しているからという説もある）
ギリシャ神話のピュグマリオンとラナンキュラスの逸話に関連があるとも言われているが、ピュグマリオンはあのピュグマリオンでいいとして、
ラナンキュラスなる人物が謎であり、いくら調べてもお花関連の情報しか出てこない。神話に造詣のある団長からの御意見を伺いたい。
ギリシャのみならず、アジアのどっかの神話にもラナンキュラスなる人物が登場する。妖精に恋い焦がれるもその気持ちを伝えられず、花に姿を変えたのだそうな。

英語ではラナンキュラスの仲間を"buttercup"と呼ぶ。バター色でカップ型の花だから。パワパフの緑色の子もこの花が元ネタである。
欧米の子供達の遊びでバターカップゲームというものがある。この花を顎の下に当てて、花弁の照り返しで首がバター色に染まったら、その人はバター好きなんだとか。
バターが嫌いな人なんていません、というアメリカ人的発想の産物である。
ネイティブアメリカンの間では"coyote's eye"という呼び名がある。コヨーテが自分の目玉を放り投げて遊んでいたら、
イーグルに目玉を攫われてしまい、ラナンキュラスの花で新しい目を拵えたという伝説に由来する。どこから突っ込んだら良いんですかね。

西アジアからヨーロッパ東南部、地中海沿岸にかけて自生する。１３世紀半ば、フランスのルイ９世が第７回十字軍遠征を率いた際、
花好きの母への土産として、シリアの都市トリポリよりラナンキュラスの球根を持ち帰ったという。この遠征が大失敗に終わったことは内緒な
ちなみにこの母というのがブランシュ・ド・カスティーユ。夫の外交に口を挟みまくり、息子が１２歳で即位してからは摂政として政治を動かし続けた肝っ玉母さんである。
ブランシュはかねてからこの遠征には猛反対していた。それを押し切った上で、ルイ９世は案の定大失敗をやらかしたというわけである。
果たしてルイ９世は純粋な好意からこの花を持ち帰ったのか、それとも詫び球根のつもりだったのか、今となっては知る由もない・・・。
１６世紀にはトルコで改良された品種がヨーロッパに導入され、１８世紀頃からはオランダを中心にヨーロッパ各地で品種改良が盛んに行われた。
２０世紀以降は日本やアメリカにも渡り、ビクトリア・ストレイン、ドリーマー、ワンダーランドなどの現在主流となっている品種が多数誕生した。
園芸品種はゴージャスな八重咲きや万重咲きが人気で、咲き方はカメリア咲きのほか、フリンジ咲き、ピオニー咲き、カール咲きの４種類がある。
花の色も豊富で、赤、黄、オレンジ、ピンク、紫、白などはもちろん、緑や褐色などの珍しい色も揃っている。
切り花の人気も高く、ブーケやアレンジメントなどにもよく使われる。バラだと思ったら案外ラナンキュラスだったりするかもしれない。

栽培難度はバラ程ではないにしてもやや高め。耐寒性があるため、霜にあたらなければ戸外越冬が可能だが、問題は夏越しにある。
ラナンキュラスは高温多湿に弱いので、梅雨前に葉が落ちてきたら球根を掘り起こして保管するが、日本の夏は湿度が高く、球根が腐りやすい。
秋に植え付けを行うが、そのまま球根を植えると急激に水を吸って腐ってしまうので、前もってゆっくりと吸水させて、もどしてやる必要がある。
こうした作業が厄介なので、一年草として育てられることも多いが、余力のある方は是非ラナンキュラスの夏越しに挑戦してみては如何だろうか。

ギリシア神話には、ラナンキュラスの花にまつわる一つの挿話が伝わっている。
ここでは、その切ない恋の話を紹介しよう。

それは、キプロスに住む青年２人の物語。
１人は若くして才能にあふれ、眉目秀麗とその名も高いキプロスの王子、ピグマリオン。
もう１人はその親友、ラナンキュラス。
ラナンキュラスは日本語で言うと「カエル君」などという名で呼ばれることからも察せられる通り、
背が低く金茶色の髪を持った、容姿にも特に秀でない男。ぶっちゃけブサメンである。

イケメンとブサメンの取り合わせではあっても、二人は固い絆で結ばれた親友同士であった。

ある日、二人は山に出かけたものの道に迷ってしまい、そこで１人の山の村娘に出会ったのである。
二人は美しい山の娘コリンヌに案内され、一夜の宿を借りることになる。
そしてラナンキュラスは、ひと目でコリンヌに恋に落ちてしまうのであった。

しかしその時、親友ピグマリオンもまたコリンヌに想いを寄せていた。
親友の恋心を知る由もないまま、ピグマリオンはコリンヌに想いを告げる。
やがてコリンヌもピグマリオンを慕うようになり、二人は結ばれることになる。

ラナンキュラスは想いを誰にも告げることなく、身を引くことを決意する。
親友とその新しい恋人に祝福の言葉を残し、そのまま姿を消したのである。

その後ラナンキュラスは失意のままにシチリア島に渡り、そこで短い生涯を終えたのだった。

一方、姿を消した親友の身を案じ、ピグマリオンは手を尽くして彼の行方を追い求めていた。
しかし時既に遅く、シチリア島でようやく探し当てたのは、友の墓であった。
為すすべもなく、その場で親友の死を嘆き悲しむピグマリオン。

その墓の脇に、一輪の可憐な花が咲いている。
やがてその花は、男の名を取ってラナンキュラスと呼ばれるようになった。

花言葉は「とても魅力的」「晴れやかな魅力」そして「美しい人格」。
変わらない友情を親友に捧げた、誠実で優しいラナンキュラスの心。
そこから溢れる魅力が、この言葉たちに込められているのである。

ちなみに、ピグマリオン。ピュグマリオンとも書かれるこの物語のもう一人の主人公であるが、
このとき親友を失った影響があったのかどうか、やがて現実世界の女性に失望した姿で神話に登場する。
話を要約すると、三次元の女に興味を失った彼が、自分の作った女性フィギュアに恋をして
その娘にガラテアと名前をつけ、女神アフロディーテにお願いしてガラテアを人間にしてもらう・・・
というヲタクの元祖のような御方であるが、それはまた別のお話である。