アカンサスとは、キツネノマゴ科ハアザミ属の学名。地中海沿岸を原産とする大型の多年草である。
この属は約30種を含むが、単にアカンサスというと、観賞用として栽培される"Acanthus mollis"を指すことが多い。
ギリシャ語で「トゲ」を意味する"ἄκανθα"(akantha)が名前の由来。それとは対照的に、種小名"mollis"はラテン語で「柔らかい」という意味なのが面白い。
和名でもハアザミ(葉薊)というように、深い切れ込みを持つ常緑性の葉が特徴である。形こそアザミに似ているものの、全長60cmにも及ぶ巨大な葉であり、
光沢のある濃緑色が相まって独特の存在感を生み出している。アザミと違ってトゲもなく柔らかい葉だが、花を包む苞(ほう)にのみ小さなトゲがある。
花期は6-9月。2m近い高さまで直立する花茎の先に、長さ60cm程の大きな花穂をつけるため、その姿は圧巻である。
その大きさのため露地植えが基本となるが、植える場所を選ばない強健な植物である。耐寒性・耐暑性ともに良好で、日陰も可。過湿を嫌うが乾燥には強い。
生命力もべらぼうに高く、植えっぱなしでぐんぐん育つ。ゴボウのような根っこを掘り出して10cmぐらいに刻んで埋めておけば、あちこちから芽が生えてくる。
ただでさえデカい上に、太い地下茎を張り巡らせてどんどん勢力を拡大させていくので、大きな庭のあるご家庭向き。軽い気持ちで植えたらあかん。
A. mollis以外には、A. spinosus(和名:トゲハアザミ), A. balcanicus(Syn. A. hungaricus, A. longifolius 和名:ナガハアザミ)なども栽培されることがある。
どちらもA. mollisと比べて小型(といっても草丈1mぐらいにはなる)なので、大きめの鉢ならなんとか育てられるかも。また、A. balcanicusは落葉性である。
アカンサスと人間との関わりは古く、古代ギリシャにまでその歴史を遡ることができる。
コリント式と呼ばれるギリシャの建築様式は、アカンサスの葉(厳密にはA. spinosus)を主な意匠としていることで有名である。彫刻家はここが由来か。
アカンサス模様は当初は柱の装飾に使われたが、これが相当な人気だったようで、次第に様々な内装や芸術品にまで同様のデザインが施されるようになる。
やがてこの様式はローマへと受け継がれ、シルクロードを越えて中東やインド、中国へと渡り、国境と時代を越えて愛され続けた。
現代においてもアカンサスは人気のデザインであり、例えばギリシャ建築を模した格調高い建物などでは頻繁に見られる。もっと身近でお花的なものでは、植木鉢にもアカンサスをあしらったものが多い。
特に「モダンデザインの父」と称されるイギリスのデザイナー、ウィリアム・モリスによる図案の数々は有名で、壁紙、カーテン、カーペットなどのデザインとして人気が高い。
このようにアカンサスが装飾に使われるようになった経緯には未だ謎が多く、長年の論争の的となっているところである。
一説には、この装飾は本来ヤシ(パルメット)の葉を模していたもので、後世になってアカンサスに似ていると言われ始めただけだ、という身も蓋もないものもあるが、
レオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」(団長が全裸で大の字になってるアレな)で有名なローマの建築家ウィトルウィウスは、次のように書き記している。
コリントスでひとりのょぅι ゙ょが病により夭折した。その死を悼んだ乳母は、遺品を入れた籠を墓前に供え、盗まれないようにタイルで蓋をしておいた。
やがて春になると、籠を取り囲むように瑞々しいアカンサスの若葉が芽吹き、溢れんばかりの生命力でタイルを押し上げようとしていた。
それを見たカリマコスというネクロフィリアの小児性愛者建築家はいたく感銘を受け、その美しさを永遠のものとするために、石柱にアカンサスを刻んだという。
本当にくだらない話なのだが、アカンサスと同じ語源を持つ魚が存在した。その名は ア カ ン ソ ー デ ス (Acanthodes)。
アカントーデスと表記されることも多いのだが、これだと九州弁に聞こえなくもない。
アカンソーデスは棘魚類と呼ばれるグループに属する魚であり、名前の通りヒレの一部が硬質化し、頑丈で鋭いトゲとなっているのが特徴である。
しかし、そんな刺々しい姿の魚をスーパーの鮮魚コーナーなどで見ることはない。
それもそのはず、P-T境界と通称される約2.5億年前の大量絶滅期に、棘魚類もまた生存競争から身を退いたのである。そらあかんわ。
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