心臓に咲く 水仙 燃ゆる夜に
スイセン(和名:水仙 英名:Narcissus 学名:Narcissus tazetta)とは、キジカクシ目ヒガンバナ科の多年草。
上述のNarcissus tazetta以外に、ニホンズイセン(学名:Narcissus tazetta var. chinensis)と呼ばれる変種もまとめて「スイセン」と呼ばれる事が多い。別名に雪中花、雅客。方言ではチチロ、キンデバナ、キンデ、シイセン、ハルダマなどの呼び名がある。
原産地はスペイン、そこから世界中に広がっているポピュラーな観葉植物の1つ。
丸い球根(鱗茎)からヒガンバナ科お馴染みの長い線形の葉を伸ばし、冬から春にかけて白や黄色の目立つ花を咲かせる。
その花からは甘い香りが漂い、見た目だけではなく嗅覚でも楽しませてくれる。
一方で、ヒガンバナ科の例に漏れず毒草。リコリンやガランタミンという様々な毒を含み、口にしようものなら容赦なく命を奪いに来る。
加えてスイセンは非常に誤食・誤飲が多い事で有名。葉だけ見ればギョウジャニンニクやニラ、ネギ類に近い。
畑でニラやネギと間違えて採ってしまい誤食、山で山菜集めしてたらギョウジャニンニクやノビルと間違えて採ってしまい誤食と、とにかくスイセンの誤食による死亡事故が年々報告されている。
日本では、中国で名付けられた漢名の「水仙」を音読みしたスイセンという呼び名で知られる。「仙人は、天にあるを天仙、地にあるを地仙、水にあるを水仙」という中国の古典に由来する。水辺に育ち、仙人のように寿命が長く、清らかなという意味から名付けられたという。
英名及び学名のNarcissus(ナルキッソス)の由来は例によって神話から。
ギリシャ神話ではもはやお馴染みの「何かかわいそうだし転生させてやるわ」フォーマットの話の1つにこんなものがある。
ある所にナルキッソスという美男子がいた。その美貌は男も女も神も人間も関係なく虜にしていた。
しかし、彼はとある理由から愛の神アフロディーテを怒らせてしまい、「彼を愛した者は彼を手に入れることが出来ない」という呪いをかけられていた。
神に呪われた運命故に誰も彼と結ばれる事は無く、不幸の連続や彼自身に愛想をつかされるという形で皆その恋を砕けさせていった。彼も叶わない恋が続いた結果、無感動で非情な人間へと変わっていった。
特に、エーコーという精霊は彼に捨てられた悲しみから彼を呼ぶ声がいつまでも反響しつづけ文字通りの木霊(こだま)と化してしまう程。
そしてエーコーの件に怒った復讐と天罰の神ネメシスは、ただでさえ呪われた彼に新たな呪いをかけた。「誰も愛せないナルキッソスは、もはや自分しか愛せない」と。
ネメシスはナルキッソスを裁く為に鏡面の様に澄んだ泉へと彼を呼び寄せた。
「う~~水分補給水分補給」
今、きれいな水を求めて全力疾走している僕は顔立ちが整いまくったごく一般的な男の子。
強いて違うところをあげるとすれば、自分自身が大好きって事かナ……。
そんなわけで山にあるきれいな泉にやって来たのだ。
ふと水面を見ると、水面に一人の若い男が映っていた。
「――ウホッ!いい男…」
こうして、水鏡に映る自分自身に夢中になってしまったナルキッソスは、飢えて死ぬまで己の姿に陶酔し、愛情を抱き、その場に居続けていたという。
或いは自分自身と口づけしようと水に近づき、そのまま泉に落ちて溺死したとも。
彼が死ぬまで、もしくは死ぬ直前までいた丘には一輪の花が咲いていた。
それはなんとも美しい、文字通りナルキッソスの生まれ変わり様なスイセンの花だったという。
こういった話から、自己愛の高い人物の事を「ナルシスト」と呼び、心理学における自己愛の傾向を「ナルシズム」と呼ぶ様になったとか。
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