原産:ヨーロッパおよび西部・南部アジア
従来はヤドリギ科に属すとされていたが、現在(APG植物分類体系)はビャクダン科に含められている。
「宿り木」とも書く。(Mistletoe)
ヤドリギは、北海道から九州まで広く分布する半寄生植物。
種は粘液質の果実の中にはいっており、その粘液で樹木に貼り付き寄生する。
葉緑体があり光合成をすることができるが、木の幹に生えているので水分や無機塩類などは宿主の植物から吸収する。
それが半寄生と呼ばれる由縁である。
花はあまり目立たない黄緑色で、直径2–3cm程度。
ヤドリギと生クリーム
ヤドリギは落葉樹に寄生するが、ヤドリギは冬でも葉が落ちず、まるで鳥の巣のように一部に固まって葉が残る。
その為、葉が落ちた落葉樹でヤドリギの部分だけに多くの雪が積もる。
・・・それが生クリームのように見える(こじ付け)
ヤドリギとクリスマス
欧米では、クリスマスの日にヤドリギを室内に飾り、その下で出会った男女はキスをしてもよいとする風習がある。
その為、思春期の男子はクリスマスに学校にあるヤドリギの飾り付けの下をソワソワしながら何往復もしたりする。
また、クリスマスにヤドリギの吊し飾りの下に立っている女性は、男性から声をかけられた場合にキスを拒めない、というルールがあるらしい。
ヤドリギとケルト
ドルイド教(キリスト教の布教以前に存在したケルト社会の原始宗教)では、
聖なる木として扱っていたオークの木に寄生するヤドリギは、最も神聖な植物とされ重宝された。
オークは「森の民=ケルト」の生命の源の象徴であり、さらに冬になっても葉が落ちないヤドリギは冬の恐怖を追い払い、生命を称える冬至祭の主役だった。
儀式ではロウソクが木に取り付けられ、参列者たちは祈り、続いて狂宴が行われ、酒が供された。
クリスマスにヤドリギの下でキスをするという近代の風習は、かつてはオークの木の神の儀式につきものであった性の狂宴の名残りである。
ヤドリギと北欧神話
ヤドリギが飾り付けや絵画、装飾品などに多く見られるようになったのは何よりも北欧神話の影響が大きい。
神々の長オーディンと、その妻である女神フリッグの間に息子バルドルが誕生した。
女神フリッグは、四大元素「土・水・火・空気」から創造された万物に対して、バルドルへの忠誠を誓わせた。
ところが全ての創造物の中で、ヤドリギだけがバルドルへの忠誠の誓い(契約)を立てなかった。
バルドルは金属の剣で切りつけられても金属全てがバルドルに忠誠を誓っている為、傷も付かない。
不死身かと思われたが、火の神ロキは、バルドルの弱点が唯一契約を立てなかったヤドリギであるという秘密を知り、その枝で矢(槍)を作った。
それこそが有名なロキの矢(ヘズの槍)である。
ロキは、盲目の神ヘズを騙してバルドルに向けてヤドリギを放たせた。バルドルはヤドリギに胸を貫かれて絶命してしまう。
そして、バルドルの死を皮切りにロキは神々の世界の崩壊の戦い「ラグナロク」を引き起こすのである。
ファンタジー作品で「ミストルテイン」というものを見かけたことがある人もいるだろうが、これはヤドリギそのものを意味している。
ではなぜ、ヤドリギだけが神に忠誠を誓わない創造物として書かれたのか。
それは、ヤドリギは寄生型の為、土から生まれる植物ではなく、地中や水中に根を張って生きることもない。
万物の中で唯一「四大元素」から創造されていないものと考えられていたからである。
女神フリッグは万物によってバルドルの命が奪われないように、万物にバルドルへの忠誠を誓わせ契約させる画策をしたが、
まさか「四大元素」から漏れている創造物があり、契約にも参加しなかった植物がいたとは夢にも思わなかったのだ。
このように、古くから特殊な植物と考えられていたヤドリギは、宗教では神聖な植物、神話では神殺しの植物、
他にも雷除けのまじないや、ゴブリンなどの悪い妖精から子供を守る魔除けとして信仰の対象にもなった。
|