ゲッカビジン のバックアップ(No.36)

Dir, große Königinn der Nacht,
Sey unsrer Rache Opfer gebracht.

メキシコの熱帯雨林地帯を原産地とするサボテン科クジャクサボテン属の常緑多肉植物。そう、ゲッカビジンはサボテンの花なのである。
サボテンというと砂漠の植物というイメージが強いが、クジャクサボテンの仲間は高原や森林の生活に適応して独自の進化を遂げている。
通常のサボテンのように土に根を張らすのではなく、ゲッカビジンを含むクジャクサボテン属やその近縁種は、野生状態では木の樹皮や岩などに根を張らす着生植物にあたる。
外見も特徴的であり、サボテンというと多肉質の太い茎にびっしり生えた針、という姿を思い浮かべることであろうが、
クジャクサボテンの仲間は茎がコンブのような扁平形となり、退化した針が茎のくびれた部分に僅かに産毛のように生えているのみである。
イラストを見ると、長い葉のようなものがにょろにょろと伸びているのが確認できるが、これらは葉ではなく茎なのである。
サボテンと一括りに言っても、その生育環境で様々な生態に分かれるので注意しよう。

数あるサボテンの種の中でも、クジャクサボテンは特に花を鑑賞する花サボテンとして人気が高く、
ゲッカビジンといえばその中でも女王たる地位を持つ種としてよく知られている。
茎の丈が1mから2mにまで達するとつぼみが作られる。花は、夜に咲き始め翌朝までの一晩でしぼみ、
めしべに他のおしべから受粉が起きなければ散ってしまう。美人薄命とはまさにこのことである。
花冠は20～25cm程度であり、白い。ゲッカビジンの受粉方法は、コウモリが主体となって媒花するのが特徴。
ゲッカビジンは日本での栽培下では6～11月に咲き、この季節に株の体力が十分に回復すれば2～3ヵ月後にもう一度咲くことができる。
つぼみは初期は垂れ下がっているが開花直前になると自然に上を向いて膨らみ、夕方に芳香を漂わせはじめる。
芳香はかなり強く、咲いている近くを通り過ぎただけでもわかるほど。
美しいだけに短命が惜しくも思えるが、３５度以上の焼酎、ウォッカ、ホワイトリカーなどで花をアルコール漬けにすると、開花状態での長期保存が可能である。アルコール漬けのゲッカビジン・・・ゴクリ。
ゴクリだけに、というわけではないが、漬け込んだアルコールにはゲッカビジンの濃厚な香りが移り、そのまま飲んでしまっても美味である。

開花中でも枯れていても花は食用になる。台湾ではスープの具として食べられ、日本では花びらを天ぷらにして食べる地域もあったりする。
上手く受粉して実ができれば、その実も食べられる。
近縁種にドラゴンフルーツがあるので、実もドラゴンフルーツのように甘く美味しい。
ドラゴンフルーツは本来、ヒモサボテン属のサンカクサボテンというサボテンの果実だが、
ゲッカビジンも果実食用に改良されたものが、ミニドラゴンフルーツや石化月下美人の名で流通することがある。
ただし、原種のゲッカビジンは自家受粉ができず、当然挿し木などで増やしたクローン同士でも受粉できない。
一晩しか開花しないという性質も合わせて考えると、人工授粉を成功させるのはかなり難しいと言えるだろう。
最近では結実しやすいように改良された品種が流通しているので、果実目的で育てる際は表記などに注意しよう。

学名はEpiphyllum oxypetalum。Epiphyllum は、ギリシャ語の「epi（上）+ phyllon（葉）」が語源。oxypetalumは「鋭形の花をもつ」という意味。
花が葉の上の方で咲くことに由来している。
花言葉ははかない美、快楽、強い意志以外に「ただ一度だけ会いたくて」「艶やかな美人」がある。
花言葉だけで花魁がぴったり当てはまるのはさすが。

雑学として、ゲッカビジンは7月19日の誕生花。その同じ7月19日の誕生花に毒草で有名なトリカブトがいる。
トリカブトの花言葉は「後悔」や「復讐」等のプレゼントに送ってはいけない花言葉としても有名だが、「騎士道」「栄光」「美しい輝き」といった毒草とは思えない花言葉もある。
奇しくも小説版より花騎士として参戦したトリカブト。毒草と嫌うのではなく花言葉のように騎士として輝く姿を見てあげて欲しい。

1,ゲッカビジンの名前の由来?
元ネタにも書いてあるとおり、この花はメキシコの花である。その割にはゲッカビジン(月下美人)というまるで日本の花みたいな名前がついているが、これはどこから来たのだろうか?
一説によるとゲッカビジンの名前で呼ばれるようになったのは大正の頃からであると言われている。
当時はまだ皇太子であった昭和天皇が台湾に訪れた際、この花をご覧になり「この花はなんという名前なのか」と尋ねられたところ、
当時の台湾総督が「これは月下の美人であります」ととっさに応えた、というのが由来であるとされています。
しかし、皇室のお方に適当な事を不用意に言うというのは少々考えづらく、信憑性が低いとされている。
とはいえ、この事が月下美人の名前を広く知れ渡らせたのは事実であろう。

2,英名
当然だが、この花にも英名はある。
一つは「A Queen of the night」、まんま「夜の女王」という意味で、非常にゲッカビジンらしい名前だが、もう一つ変わった英名がある。
「Dutchmans pipe」、和訳すると「オランダ人のパイプ」という意味である。
元ネタにも書かれているが、この花は最初下に垂れる様に蕾ができ、それが開花する直前に上を向いて花が咲く。
その際首を擡げる姿がまるでパイプのように見えるから、という理由でつけられたとされている。
オランダ人に関してはどこから出てきたのか分からないが、当時オランダではパイプでたばこを吸うのが流行っていたからとかなんとか。
でもどちらかというとパイプってイギリスのイメージが……

ところで「夜の女王」という名称で流通しているサボテンがあるが、これはセレニケレウス属という分類のサボテンで、ゲッカビジンとは別種である。
森林性であることや夜中に白い大輪を咲かせることなど、実際ゲッカビジンとは共通項が多いので、お陰で混同されている節もしばしば。
更にややこしいことには「夜の女王」は本来"Selenicereus macdonaldiae"という種に当てられた流通名のはずなのだが、
実際にはよく分からない雑種などが「夜の女王」の名で出回っていることも少なくない、というか多い、ほんと多い。園芸業界ってなんでこんな適当なの。

3,新月の夜にしか咲かない?
ゲッカビジンというと、新月の夜にしか花が咲かない、と言われている。
しかしこれに関しては俗説であり、実際には月齢に合わせて花を咲かせる事は無い。
野生のゲッカビジンの受粉に利用されるコウモリにそういう性質が無いからである。
しかし、やはり新月だったり満月だったりそういう神秘的な日に花が咲く方がよりゲッカビジンの神秘性が増すのだろう。