ウルシ のバックアップ(No.54)

ウルシ(漆、Toxicodendron vernicifluum)はウルシ科ウルシ属の落葉高木。
雄花と雌花が別の木に咲く雌雄異株で、実を付けるのは雌の木だけである。
中国原産。日本に持ち込まれたのは縄文時代とも、人類入植以前に鳥が運んだとも言われる。
葉は3～9対で左右対称に付き、6月頃に黄緑色の小さい花を房状につける。

漆器の材料として有名だが、この成分は多くの人がかぶれるため、近づかない方が無難。
同属には、ロウソクの原料となるハゼノキや紅葉のきれいなツタウルシなどがある。
また、ウルシ科には実に脂肪を含むものがあり、前述のハゼから作られるロウソクはこれを利用している。
こうした脂肪を含む種の中にはナッツ類として知られるものもある。

主に知られているウルシ科の属名と名称は下表のものなどがある。

前述の通りウルシといえば塗料としての用法が有名であるが、
これにはウルシを含むウルシ科の樹木から採れる樹脂に含まれるウルシオールを利用する。
ただしこの成分は皮膚に触れるとかぶれの原因となるため、扱いには注意が必要である。
ウルシオールは揮発性があり、体質によってはウルシの木の近くを通るだけでもかぶれてしまうことがある。
また、山火事などによってウルシの木が燃えるとウルシオールを含む煙が上がり、
これを吸い込むと気管支や肺内部がかぶれて呼吸困難に陥ることがあり非常に危険である。
このためウルシの生える場所で火事が起こった場合そうでない場所以上に注意が必要である。
ちなみにウルシオールで起こるかぶれはアレルギー反応によるもので、
ウルシオール自体が皮膚の炎症を起こす毒性を持っているわけではない。

漆細工に使うウルシ樹液が取れるまでには、苗木から育てておよそ10年。
そして樹皮に横一文字の傷をいくつもつけながら樹液を採取していく。
採取方法は二通りあり、一つ目は6～8月の期間だけ木を傷つけ、次の年は木を休ませる「養生掻き」。この方法は中国やベトナムで行われている。
二つ目は6月～10月にかけて傷をつけていき、採取しつくしたら木を切り倒す「殺し掻き」。
日本ではこちらが主流。漆の樹液は血の一滴。
殺し掻きは物騒なやり方に見えるが、切り倒す作業こそが殺し掻きの決め手。
ウルシの生命力は強く、秋の終わりに切り倒した株は来春にひこばえを生やす。
そのひこばえをまた10年育て、ふたたび切り倒すサイクルが殺し掻きで繰り返される。
むしろ絞りつくした木を放置すると、文字通りそのまま殺してしまうことになる。

そしてここまでしても、一本の木から良くてわずか200mlしか採取できない。まさに人にとっても血の一滴。
その樹液の不純物を取り除き、精製し、均質化し、水分を飛ばし、
時には顔料を混ぜ、何層にも塗り重ね、乾燥させ、磨き、装飾し…
ウルシは複数の職人によるさまざまな工程を経てようやく漆器になる。
木と人が時間と手間をかけた漆塗りの器や道具は、大切に大事に使いたい。