ホトトギス

時鳥 鳴くや五月の 菖蒲草
　　　　　あやめも知らぬ 恋もするかな

ホトトギスはユリ科ホトトギス属の多年草。日本原産とされ、山中の日陰を好んで自生する。
開花期は８～９月ごろ。ホトトギスの花はユリに似ているが小さく、白地に紫の斑紋を持つのが特徴。

近縁種には様々な色のものや、斑紋を持たないものもある。
斑紋のようすが例の鳥の胸の模様と似ていることから、ホトトギスの名がついたという。

一方、英名では"toad lily"と呼ぶ。toadというのはあの呪文のとおりカエル、特にヒキガエルなどのこと。
斑紋をヒキガエルの背中のイボイボに見立ててこう呼ぶそうな。この差は何だ？

しかし実際にホトトギス（鳥）を見ると、胸の模様は斑というより縞に近く、あんまり似ていない。
いいんです、見え方よりも感じ方なんです、花から鳥を連想する日本人の詩情なんです…多分。

国内には希少な地域固有種も多数存在するが、その多くが絶滅危惧種としてレッドリストに登録されている。
山野の急速な開発行為のほか、盗掘の被害が後を絶たないことがその主な理由である。

野生のホトトギスちゃんを見かけても、可愛いからといってお持ち帰りは厳禁です。
静かな森での生活を、優しく見守ってあげましょう。

園芸店で売られているタイワンホトトギス系の交配種は非常に丈夫で、目立った害虫もいないため育てるのにオススメ。
庭に植えるとかなり巨大に成長し、次々と開花する姿は圧巻である。

一方で国内産の原種ホトトギスは乾燥や強い日差しが苦手なものが多く、ナメクジやハマキガといった害虫にも食害されやすい。
中でも垂れ下がる姿と黄色い花がとても綺麗なジョウロウホトトギスは特に乾燥や暑さが苦手でやや栽培が難しい。

１１月２９日の誕生花がホトトギスとしている書籍では

１１月２４日　ピラカンサ　１１月２６日　カラー　１１月２７日　ルピナス　

の順で誕生花が紹介されている。

鳥のほうのホトトギス（以下 時鳥）は、昔から和歌や文学作品に多く登場する鳥である。
ホトトギスが詩の創作が趣味だったりというのは、それに関連付けられているのだろう。

名のみ立つ しでのたをさは 今朝ぞ鳴く
　　　　　　　　　庵あまたと うとまれぬれば　　-伊勢物語より-

渡り鳥である時鳥は春～初夏（大体5月頃）に日本や中国に飛来するため、夏の季語として扱われる。
それは丁度農耕の時期なので、賤（しづ）の田長とも呼ばれ農耕と関連付けられたりもしていた。
しかしおそらく中国の故事の影響なのか、死出の田長などと呼ばれ、あの世と関連付けられるようにもなっていった。
死出の山とは仏教における三途の川の手前。時鳥はその山から飛来してくるという。
山を超えた麓には曼珠沙華と曼荼羅華の花畑が広がっているとか。ギリ此岸なのに彼岸…とか突っ込んではいけない

死出の山 越えて来つらむ ほととぎす
　　　　　　　　　恋しき人の うへ語らなむ　　-拾遺和歌集 哀愁　伊勢-

秦の以前、蜀（三国志の蜀ではない、古蜀といわれる国）という傾きかけた国があった。
そこに杜宇という男が現れ、農耕で蜀の国を再興し「望帝」と呼ばれた。
彼が死んだ後その魂はホトトギスとなり、民に農耕の始まりを告げるために鋭い声で鳴くようになった。
後に蜀が秦によって滅ぼされてしまったことを知ると、ホトトギスになった望帝は嘆き悲しんで、
「不如帰去（帰り去くに如かず＝（蜀の地へ）帰りたい）」と鳴きながら血を吐いた（あるいは血を吐くまで鳴いた）。
なので、今でもホトトギスのくちばしが赤いのはそのためだと伝えられている。
（pixivより抜粋）

ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば
　　　　　　　　　ただありあけの 月ぞ残れる　　-藤原実方-

ホトトギスは夜鳴く鳥として知られ、早起きして夜明け前のホトトギスの鳴き声を聴くのが、平安時代の貴族のトレンドになっていた。
後徳大寺左大臣・藤原実方もこの流行にチャレンジし、すわホトトギスが鳴いたぞと鳴き声のした方を振り向くも、
そこにはすでに鳥の姿はなく、ただ有明の月（夜明け前に昇る逆三日月）だけが空に浮かんでいた――というガッカリ感が詠まれている。
当時の男性貴族は、愛する女性の元へ夜な夜な通い、夜明け前に帰る“妻問婚”が通例だったので、
あるいはその帰りがけの忍びない気持ちをホトトギスの鳴き声に仮託したのでは――などと秋桜してみたりｗ

さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜の
　　　　　　　　　別れを誘ふ ほととぎすかな　　-お市の方 辞世の句-

夏の夜の 夢路はかなき 後の名を
　　　　　　　　　雲居にあげよ 山ほととぎす　　-柴田勝家 返歌-

勢いがあり、どこか激情的にも聞こえる鳴き声、農耕の鳥、あの世の鳥。
昔から多様な認識をされてきたホトトギスは、平安の世から戦国時代まで、
前述のとおり様々な文学の面で使われていることが多い。和歌集なんかを見ると大抵どこかに載ってたりする。
呼び名も時鳥・霍公・霍公鳥・杜鵑・不如帰・蜀魂・無常鳥・子規・田鵑・郭公…など、把握しきれないほど多い。なんなのこの鳥…

鳴かぬなら 殺してしまえ 時鳥　　-織田右府-
鳴かずとも なかして見せふ 杜鵑　-豊太閤-
なかぬなら 鳴まで待よ 郭公　　　-大權現様-

鳴かないホトトギスを織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の天下人たちならどうするかという「鳴かぬなら…」で始まる有名な俳句は、
江戸時代後期に書かれた『甲子夜話』という随筆集からの抜粋である。別に本人たちが実際に詠んだわけではない。
現パナソニックの創業者である松下幸之助はこれになぞらえて、「鳴かぬなら それもまた良し ホトトギス」と詠んでいる。

あの声で蜥蜴食らうか時鳥　　-榎本基角-

あの美しい声で鳴く時鳥が、蜥蜴のようなゲテモノを食うなんて信じられないということで、
美人が見かけによらず気性が激しかったり、乱暴な言動をしたりする場合に引用される。
上記のようにホトトギスは肉食性の鳥であり、特に毛虫などの害虫を好んで食べてくれるため益鳥とされる。
なるほど、そういうことだったのか…。

さらにさらに、近代文学においてもホトトギスの名は残っている。
俳人・正岡子規と彼が創刊した俳句雑誌『ホトトギス』（ほとゝぎす）だ。
彼の俳号「子規」は前述のとおりホトトギスのことであり、結核を患い喀血する自らを「鳴いて血を吐く」といわれているホトトギスに重ね合わせている。
また雑誌『ホトトギス』は、かの夏目漱石が『吾輩は猫である』や『坊っちゃん』を発表した雑誌として有名。
月見イベントで「月が綺麗ですね」が流行ってたし、スカネの古書市を探せば雑誌『ホトトギス』がスプリングガーデンに紛れ込んでいるかもしれない…