蓮は泥より出でて泥に染まらず(蓮之出淤泥而不染)
ハス(蓮)はインド原産の水生植物である。
日本を含むアジアにおいては文化面、宗教面、そして生活面でも非常にかかわりが深い。
ドロドロの濁り水にあってもその水の色に染まらず、美しい可憐な花を咲かせるというその見ためは、清廉性の象徴である。
北宋の周敦頤が詠んだ『愛蓮説』はその一部が「蓮は泥より出でて泥に染まらず」ということわざ(成句)になっている。
仏教においても重要な植物であり、仏像の下によくあしらわれている。また極楽浄土に行く時には蓮の花の上で生まれ変わるという考えがあり、それが派生して一蓮托生という言葉が生まれている。
また種が非常に堅固なことで知られている。千年単位で土に埋まっていても発芽性を保つことができ、出土した蓮の種から育てられた古代蓮が各地で栽培されている。
生活面でも非常に重要。蓮の根っこは食用になるが、これがいわゆるレンコン(蓮根)である。日本人にとって一番なじみが深いのがこれであろう。
蓮の身(花托)は、若い物はそのまま食べるほか、種を加工して食料にしたりする。漢方では蓮肉という生薬に分類されている。
日本ではあまり食べないが茎も食用で、ゆでたり炒めたりして食べることができる。
葉は蒸し物の際の包みに使うことができ、柔らかくしたものを直接飯に入れて食べる蓮葉飯というものもある。
極めつけは花で、その香りを茶葉に着香させて作るお茶がベトナムにある。「豚は鳴き声以外全て食べる」という格言(?)があるが、蓮はなんと香りまで食べられるのである。
またネットでは蓮の実が蓮コラとして精神的ブラクラの材料としても利用されている。
スイレン(睡蓮)は、その花が一定周期で閉じる(実際には蓮も閉じて開いてを繰り返す)ことから「ねむる蓮」ということでそう名付けられた同じスイレン科の仲間である…と思われていた。
しかし20世紀にはいり植物の遺伝子を調べてそれを系統化するという方法が出現した(APG体系)のだが、これで調べたところなんとハスはスイレンの仲間ではなく、ヤマモガシという似ても似つかない植物の仲間であることが判明した。
このヤマモガシ、水に生えるどころかほとんどが陸上に生える木でありプロテアさんが属している。なんとハスさんはオオオニバスさんやブルーロータスさんの親戚ではなくプロテアさんの親戚だったのである!
実は怪しい節は結構あった。
スイレンは葉に切れ込みがある(オオオニバスでさえもフチが切れている)がハスには無かったり、ハスには立ち葉という水上に飛び出て生える葉がつくがスイレンには無かったり、葉の質感も全然違ったり(ハスは水をはじくがスイレンははじかない)、花の咲き方もスイレンは水面ぎりぎりなのにハスはかなり上まで伸びたり、つぼみの形もなんか違うし、ハスは花托があるのにスイレンには無いし、種も大きさが全然違うし、スイレンはレンコンとれないしetc...という具合。
つまりよくよく観察すると咲いた花以外全部違うのだが「花似てて同じ水生植物だし仲間だよね」とAFN的解釈していたら全くの別物だったということである。一応擁護しておけば、スイレンの仲間にもコウホネのように葉っぱが水上に大きくせり出す種や、熱帯スイレンのように結構高い位置に花を付ける種もあるにはあり、この2点については必ずしもハスとの絶対的な差ではなく、「遺伝子という答え」を知らなければスイレンの仲間にされたのは仕方ないと言ったところ。
こういう風に環境に適応した結果似たような形態をもったものを収斂進化という。なお、ハス科としての仲間はハスと、アメリカにいるキバナハスの2種だけである。
園芸としては種から育てることができるほか、レンコンからも育つ。鉢を水に沈めたりと育て方は一種独特であるがチャレンジしてみてほしい。
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