ヨモギ のバックアップ(No.42)

かくとだに　えやは伊吹の　さしも草
　　　　　　さしも知らじな　萌ゆる思ひを

キク科ヨモギ属の多年草。爽やかな香りと優れた薬効をもつ、日本を代表するハーブである。
ヨモギ属の学名"Artemisia"はギリシャ神話のアルテミスからとされるが、薬草学者でもあったカリア王国の女王、アルテミシア２世からとも言われている。
生命力が高く、日本中のいたるところに自生する。葉は羽状に深く切れ込み、裏面にびっしりと密生する白い毛を持つ。
８～１０月ごろに茎を高く伸ばし、ほんのり赤紫色っぽい小さな花を咲かせるが、この花は風媒花であるため、裸子植物の花と同様に地味であまり目立たない。
ただでさえ成長力旺盛だが、他の植物の成長を抑制するアレロパシー作用を持つため、周囲の雑草を駆逐しながらぐんぐん成長する。
この能力は自らの種子の発芽までも抑制してしまうが、ヨモギは地下茎でも繁殖できるため、大群生に発展することも多い。
また風媒花であるヨモギの花粉は花粉症の原因物質のひとつであり、ブタクサと並んで秋の花粉症としてはポピュラーなものである。
ハーブとしての利用価値は高いヨモギだが、農家やアレルギーモチィにとっては厄介な害草という一面もある。
また、ギザギザの新芽はトリカブトと間違われやすい。

洋の東西に関わらず食用、薬用ともに古い歴史を持つハーブであり、誰が言い始めたのか「ハーブの女王」という大層な異名まで冠するほどである。
主に春に摘んだ新芽を利用する。食用としては、すり潰して餅に混ぜた草餅や、新潟県銘菓の笹だんごなどが代表的。
餅の他にも天ぷらやおひたし、パンやケーキなどなど、工夫次第で豊富なレシピを楽しむことができる。もちろん薬味にも使える。
ハーブとしての効能は多岐にわたり、万能薬と言ってもいいぐらいの優秀なハーブである。
食物繊維、クロロフィル、βカロテン、各種ビタミン、ミネラル（鉄、カリウム、カルシウムなど）を豊富に含み、
毒素や老廃物の排出を促して血液を浄化し、体質の改善に役立つほか、最近ではがん予防にも効果があるとして注目されている。
独特の香りのもととなる精油成分にはリラックス効果もあるため、アロマや入浴剤などにも利用される。
灸につかう艾（もぐさ）は、ヨモギの葉の裏にある繊毛を精製したものであり、温熱と精油成分により血行を促進させる働きがある。
外傷に対しては、生の葉をよく揉んで傷口に当てると止血・殺菌の効果がある。

ヨーロッパでは近縁のニガヨモギ（ワームウッド）が同じくハーブとして知られており、アブサンやベルモットなどのリキュールの原料に利用される。
特にアブサンは７０度前後という高い度数、鮮やかなグリーン、一度飲んだら忘れられない強烈な芳香、精油成分のツヨンがもたらす幻覚などにより「緑の魔酒」と称され、
１９世紀には多数の中毒者を生み出したために、製造・流通・販売が大規模に規制されたという来歴を持つ曲者である。
現在ではツヨンの残存許容量が10ppm以下という制限付きで製造されており、残念ながら妖精さんを見たりすることは難しい。
もっとも、かつてのアブサンにも妖精さんが見えてしまうほどの威力が実際にあったのかは疑問とされており、
それは幻覚というよりも、緑の魔酒の醸し出す雰囲気に魅せられてしまった、ということだったのかもしれない。

ヨモギは魔除けの霊草としても知られている。
古代中国の貴族は男児が生まれると、クワの弓でヨモギの矢を天地の四方に射ち将来の大成を祈った。
アイヌの民話でも、オキクルミやサマイクルなどの文化英雄がヨモギの弓矢で魔物や悪いカムイ（神）を懲らしめている。
英国の人魚伝説では、恋人の危篤を嘆く青年に人魚が「ヨモギの花が咲いているというのに、その美しい乙女をあなたは死なせるつもりなの？」と歌い、娘の病気にヨモギのしぼり汁が効くことを教える。

参照
珍獣様の博物誌「ヨモギ」　http://www.chinjuh.mydns.jp/hakubutu/kuirejo/yomo_a.htm