ギンリョウソウ(銀竜草) 学名:Monotropastrum humile 別名:水晶蘭・丸味銀竜草・幽霊花(幽霊茸・幽霊草)・露左衛門
新エングラー体系ではイチヤクソウ科、クロンキスト体系ではシャクジョウソウ科
最新のAPG分類体系ではツツジ科と、分類される体系によって科が異なっている。
現在の分類ではツツジ目ツツジ科シャクジョウソウ亜科ギンリョウソウ属(Monotropastrum)とされている。
同属は本種と中国雲南省に分布する"Monotropastrum sciaphilum"の2種のみから構成される。
ちなみに、日本において広く普及しているのは新エングラー体系ではあるが、 他の体系としてはクロンキスト体系や1998年に発表された分子系統解析に基づくAPG体系がある。 学問的には新エングラー体系は古典的なもの という位置付けにされている。 具体的な動きとしては日本国内ではクロンキスト体系を採用している図鑑もある。 2012年に国立科学博物館がハーバリウムの標本整理に伴い、新エングラー体系からAPG体系への変更が行われ、さらには、同年にAPG IIIに基づいた植物目録を刊行している。
シャクジョウソウ科の多年草であり、腐生植物としては日本ではもっとも有名なものの一つである。
ギンリョウソウは葉緑素を一切持たないという珍しい植物であり、そのため全草が透き通った白色をしているのが特徴。
神秘的とも言うべきその姿は、まさしく「銀竜草」という名に違わぬものである。
ほとんどの期間を地中で過ごすが、春から夏に訪れる花期の間だけ、その不思議な姿を地上に表してくれる。
我々が通常イメージする「植物」とはかけ離れた外観のため、知らなければキノコだと思われることも多く、
実際に「ユウレイタケ」というあからさまにキノコっぽい呼び名まであるが、間違いなく植物なのである。
ごく稀にではあるが、薄っすらと青やピンクの色合いを帯びることがあり、純白とはまた違った幻想的な雰囲気を醸し出す。
突然変異なのか、土壌の成分によるものなのか、菌類の色素が移ったものなのか、詳しいことは不明。
宮崎-鹿児島県境の霧島山「マイクチェックの時間だオラァ!」には非常に珍しい薄紅色のギンリョウソウが自生しており、
ベニバナギンリョウソウと呼ばれているが、本種の分類上の定義ははっきりしていないようである。
葉緑素を持たないため、普通の植物が自活していくためには必要不可欠な光合成をすることも、もちろん不可能である。
故に、ギンリョウソウは土中の菌類へ「寄生」することで、生きるためのエネルギーを得ているのである。
ギンリョウソウは森林の林床に生え、ベニタケ属の菌類と外菌根を形成し、そこから栄養を得て生活する。
一方で、ベニタケ属は主にブナ科やマツ科といった樹木の根とも外菌根を形成し、樹木が光合成により作り出した有機物を得て生活している。
つまり、ギンリョウソウは直接的にはベニタケ属菌類に寄生しているが、
究極的にはベニタケ属の寄生している樹木に養分の供給を頼っている、と言うことができる。
「腐生植物」という名前のため、周囲の腐葉土から栄養を得ていると思われがちだが、腐葉土から有機物を得る能力はない。
実際にそのように書いてある著作も多い事が誤解を生んでいるのだろう。
当たり前だがその性質上栽培は不可能に近い。
決してどこにでも見られる植物というわけではないが、山中ではそれほど珍しい植物というわけでもないので、
会ってみたい団長さんは、深いブナ林の枯葉がたくさん積もったところを注意深く探すと、意外と簡単に見つけることができる、かも。
ただし、背が低い植物のため土で汚れしまっていることが多く、図鑑で見るような神秘的な姿を拝むには運と根気が必要。
類似しているのが、ギンリョウソウモドキ(銀竜草擬)。見た目は非常によく似ているが、分類上はシャクジョウソウ属(Monotropa)と別属。
日本ではギンリョウソウに比べて見かける機会が少ないが、世界的に広く分布していてメジャーなのはモドキのほうだったりする。
開花期がギンリョウソウより遅く、秋に花が咲くためアキノギンリョウソウとも呼ばれるが、夏の終わり頃には一部花期が重なる。
主な見分け方は以下の点。
- ギンリョウソウの柱頭(雌しべの先端)は青紫色だが、モドキは黄褐色。
- 花が終わると、ギンリョウソウは液果をつくるが、モドキは乾燥した蒴果となる。
- ギンリョウソウの花はやや横向きだが、モドキはほぼ完全に下向き。
- ギンリョウソウの花弁や鱗片葉の縁は滑らかだが、モドキは細かく裂けて鋸歯状になる。
さて、上の説明にある菌根とは何じゃ?と思う団長諸兄もいるかと思う(いなかったらすみません)。
菌根とは、土壌中のある種の菌類(FungiであってBacteriaではない)が、根の内部あるいは表面において植物と共生状態にあるものを指す、と定義されている。ここで重要なのは、FungiであってBacteriaではないということ。基本的に、菌根を形成する菌類は糸状菌と学術的に呼ばれるもので要するにキノコである。(菌根の例としてはアカマツの菌根菌であるマツタケなどがある)
あんまり説明になってない!!と思わないでほしい。
この菌根には各種の種類があり、外生菌根、内外生菌根、アーバスキュラー菌根、エリコイド菌根、アーブトイド菌根、モノトロポイド菌根、ラン菌根そしてエントローマ菌根に大別されている。
色々あり過ぎて混沌としている…
これらの役割は菌根菌の形成する外生菌糸とよばれる菌糸を通じて、各種の栄養分を取り寄せ、根の表皮細胞から吸収する、ということから、自分の根が届かない範囲にある栄養分を取り寄せるための道具、とも言い換えられるであろう。
こんなに便利な(?)菌根であるが、彼らと共生することを拒んだ花騎士たちもいる。
アブラナ科、アカザ科、タデ科の各科に属すすべての種、およびマメ科のLupinus属である。
なぜかは編者にはよくわかっていないが、遺伝子組換えを行った菌根菌は感染する、という報告もあるので、もしかすると相性が悪いだけなのかもしれない。(編者は植物―微生物共生系に関する専門家ではないため、詳しい方に訂正してもらいたい…)
ちなみに、この菌根菌の感染メカニズムはマメ科植物の根粒菌の感染メカニズムとほとんど一致しているため、もしかしたらマメ科じゃない植物にも根粒菌が付く日が来るかもしれない。
(感染の初期の認識機構をより学術的に説明すると、ミヤコグサにおける研究では、根粒菌の感染には根粒菌のNodファクターを植物が認識することで共生応答が始まる一方、菌根菌では菌根菌のMyc因子が共生応答の認識として必要である)
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