Godiam, fugace e rapido
È il gaudio dell'amore;
È un fior che nasce e muore,
Né più si può goder.
バナナで釘でも打てそうな真冬の厳しい寒さの中、真っ赤な花を華麗に咲かせる、ツバキ科ツバキ属の常緑広葉樹。
正確にはヤブツバキという種を指すのだが、いくつかの近縁種やそれらの交配による園芸品種を含んだ総称としてツバキと呼ぶことも多い。
でも近縁で見た目もそっくりなサザンカをツバキと呼ぶことは、見間違え以外ではあまりないので、ツバキという呼称の示す範囲は案外曖昧だったりする。
硬く艶のある葉と、ボリュームのある豪奢な花が特徴的な樹木であり、庭木や街路樹として植樹されているのをよく目にする。
背の低い木と思われていることも多いが、それはちゃんと剪定されているか、豪雪地帯に適応し背が低くなったユキツバキの因子を持っているため。
ヤブツバキは樹高5m以上に成長し、10mを超えることも珍しくない高木である。
漢字では「椿」と書くが、ツバキといえばむしろ冬の花というイメージが強いのではないだろうか。
品種によって早咲き・遅咲きがあるものの、ツバキが咲くのは通常2~3月頃、寒さの盛りである。
これは旧暦が新暦よりも1ヶ月ほど遅いこと、そして旧暦では1~3月、つまり現在の2~4月頃を「春」としていたことを考えると納得できる。
つまり、旧暦ではツバキはちょうど冬の終わりに、春の訪れとともに咲く、春を告げる花だったのである。
ちなみに「榎」と書いてエノキ、「柊」と書いてヒイラギと読むのは、聡明な団長諸兄ならばご存知のことだろう。
では「楸」はどう読むかご存知であろうか?答えは反転→【ヒサギ】
今では使われない古い言葉なので、これが読める団長は間違いなく漢字マニアか古典フリーク。
尚、この4つの漢字は全て日本で作られた、いわゆる国字である。
更に面白いことに、いずれも古来から呪術的な力を持つ霊木と見なされていたという共通項を持ち、日本人の四季観と自然信仰の根深さが伺える。
特に有名なのがヒイラギで、邪鬼を退ける力を持つとされ、節分の柊鰯などの習慣は現代にも残されている。
馴染みの薄い「楸」も「梓(あずさ)」と言い換えれば、梓弓や梓巫女を連想できるのではないだろうか。
ちなみに「椿」の音読みは「ちゅん」と「ちん」。あるPCゲームに「椿子」という人物が 「うっふふ、ようやく静かになりました」
学名の"Camellia japonica"の通り日本原産の植物であり、我々日本人とはかなり長い付き合いがあることが分かっている。
古代ではツバキは花を楽しむものではなく、意外なことにありがたい霊木であった、というのは先述のとおり。
寒さに強いツバキだが、実は九州以南の亜熱帯原産であり、常緑樹や鳥媒花という南国の樹木特有の性質を持つ。
本州に自生する樹木がほとんど落葉樹であり、冬になると葉を落としてしまう中で、
亜熱帯原産のツバキだけは葉を落とさないことから、神聖視されるようになったようだ。
古事記や日本書紀では、景行天皇がツバキの木から切り出した槌を用いて、土蜘蛛を討伐したとされている。
ただしこの土蜘蛛というのは、天皇の命に従わない地方豪族らに対する蔑称のようなもので、かの源頼光の討伐したという大妖怪とは別のものである。
他には、人魚の肉を食し800歳まで生きたという若狭の八百比丘尼の伝説では、彼女は白玉椿の花を手に全国を行脚したと伝えられ、
ツバキは生と死、永遠と再生、そして母性の象徴として信仰を集める、女神のような花であったことが伺える。
万葉集にもツバキを詠んだ歌があるものの、その数は9首と少なく、あまり芸術の対象としては見られていなかったことが伺える。
一方で種子を絞って得られる「椿油」は様々な用途に使える最高品質の植物油として、古くから非常に重宝された。
現代でも椿油は整髪料としてお馴染み、というか、ここ10年でツバキと言えばすっかりシャンプーのことになってしまった・・・。
花の美しさに注目が集まるのは室町時代以降。茶の湯の文化の発達とともに冬の茶花として好まれ、茶花の女王とも讃えられる。
日本が世界有数の園芸大国として栄えた江戸時代には、ツバキも品種改良が盛んに行われ、様々な品種が生み出された。
世界最高レベルのお花マニアに目を付けられたツバキ嬢は、彼らの思うままに改造されていったのである。
一方、江戸幕府とオランダとの貿易の中で、ツバキ嬢は華々しくヨーロッパ進出を果たす。
常緑樹で日陰でも花が咲くという性質は、寒冷なヨーロッパの地でも好まれ、豪奢な花姿は「日本のバラ」として西洋人にも大ウケした。
ヨーロッパ独自の品種改良も進み、日本産の品種とは趣の異なる、ゴージャスな洋種ツバキがいくつも誕生した。
19世紀にはご婦人方の間で大ブームとなり、ツバキの花をアクセサリーとして身に付けることが淑女の嗜みとなった。
今でもフランスのシャネル社の製品などにカメリア、つまりツバキをモチーフとしたものが多いのには、こうした背景が存在する。
ふる山茶の精怪しき形と化して、人をたぶらかす事ありとぞ すべて古木は妖をなす事多し
見るからに華々しいツバキ嬢だが「櫻の樹の下には屍體が埋まつてゐる」とも言われるように、
その美しさにも関わらずというべきか、その美しさゆえと言うべきか、ちょっと怖い噂も絶えないのがこの花である。
年老いたツバキは妖怪となって人をたぶらかすと云われ、日本各地に「古椿」にまつわる伝承や怪談が存在する。
あんまりツバキ嬢に酷いことをしたり、ぞんざいに扱ったりすると、化けて出るやもしれませぬ・・・団長諸兄はご注意を。
日常生活にも関わりがありそうなのが、入院している人へのお見舞いにはツバキを持って行ってはいけない、という話。
ツバキは花が終わると、花弁がはらりと散るのではなく、大きな花全体が丸ごと根本からポトリと落ちるのである。
「落椿」とも呼ばれるこの様子は、まるで首が落ちるようであるとして、縁起が悪いとされることが度々ある。
ちなみにサザンカはツバキによく似ているが、花弁を一枚ずつ散らせていくタイプである。
なので理論上はセーフのはずだが、やっぱりツバキに見間違われることが多いので、あまりよくない。
また、打首を思わせることから武士はツバキを嫌っていたという話があるが、これは全くのデタラメである。
一説では明治時代以降、ツバキの評判を落とそうと画策したボタン派が流したデマだとかなんだとか。なにやってんだ。
そしてこの説もまた、ボタン派の印象を悪くするためにバラ派あたりが流したという可能性も・・・高度な情報戦・・・!
実際ところは、そもそも当時の武士はお茶の心得があるもので、そうするとツバキは茶花には欠かせないわけで、
更には大昔から魔除けの力のある霊木と伝えられていたこともあり、武士には大人気の花だった。
縁起が悪いとされる散り様も、散っても誇らしげに上を向いているとして好まれることもあったという。
武人肌な彼女の性格は、こうした武士の文化との関連を反映したものなのかもしれない。
ちなみにヨーロッパでは、ツバキは貴族のように潔く散る花と言われているらしい。「負けてられないんですよぉ!貴族はぁ!」
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