アオイ科の多年草で、草丈が2mを越すような大型の草花である。
開花期はだいたい5月下旬から7月頃で、すらっと直立した背の高い茎に、目に鮮やかな大きな花が次々に咲く様子は
初夏を告げる風物詩として古くから親しまれており、
『タチアオイの(花茎の)てっぺんに花が咲くと梅雨が明ける』などという言い伝えもあるほどである。
また花の季節から「梅雨葵」という別名もある。
野生種は見つかっておらず詳細な原産地は不明だが、地中海沿岸(小アジア、トルコ近辺)と言われている。
日本にはかなり古い時代に中国経由でもたらされたと見られており、その縁でかつては中国原産とする説もあったが、
地中海沿岸地方の原産種と東ヨーロッパ原産種との雑種、とする説が有力。
日本に入って来た年代は不明だが、古今集や枕草子にはアオイ(あふひ・葵)の花を詠んだ歌がいくつも見られるため、
遅くともその時代には既に、観賞用として親しまれていたものと思われる。
ただし古い時代の葵(あふひ)についてはタチアオイ説とフユアオイ説があり、フユアオイ説を取る場合には
タチアオイは江戸時代頃に日本に来たものとされる場合もある。
とは言えフユアオイは花が小さく、主に食用で観賞には向かないため、和歌のテーマとして盛んに使われていたことからすると
フユアオイ説にはこの点で疑問が残る、という見方もある。
また古来から、「葵」と言った場合にこのタチアオイ(とアオイ科の仲間)を指す場合と、
ウマノスズクサ科のフタバアオイを指す場合の2通りがあり、注意が必要である。
古歌で「あふひ草」と言った場合にはフタバアオイを指していることも多く、
また徳川家の家紋で有名な「葵の御紋」のモチーフも、このフタバアオイのことである。
徳川家(やその諸流・分家)にゆかりがある地方で、市花などに葵つながりでタチアオイを制定しているところも
数多く見られるが、本来はフタバアオイの方を制定するべきだったのかも知れない。。。
(と言ってもフタバアオイの花は小さくて目立たず観賞向きではないので、まず観光資源にはならないと思われるが・・・)
京都の葵祭もフタバアオイを元にした古来の神事だが、こちらはさすがに由緒正しい行事ゆえか混同されることもなく、
フタバアオイをモチーフとして公式にアナウンスされている。
まあこちらは牛車から参列者の装束まで、全体的にすべて葵の葉で飾り付けるのが代々の習わしだったので
(葉の形も全然違う)タチアオイとは間違えようがなかったという事情もあるのだが。
ちなみに、源氏物語に登場する「葵の上」の葵は、一緒に葵祭に参加する描写などからフタバアオイのことと思われるが
巻が下って「藤袴」に見られる『心もて光に向かふ葵だに 朝おく霜をおのれやは消つ』という歌については
「光に向かう」という描写からも、空に向かって真っ直ぐに伸びるタチアオイのことと思われる。
このように同じ「葵」という名の草花について、当時は前後の文脈で自然に使い分けていたことが見て取れる。
(ややこしい・・・)
中国やヨーロッパ(特に南部)では、古くからタチアオイやアオイ科の仲間を薬草として利用して来ており、
現在でも漢方薬「蜀葵根」としてタチアオイの根を干したものが胃腸薬・利尿剤として使われている。
属名のアルテア(Althaea)もギリシャ語のalthaino(治療)が語源で、最古のハーブの1つと言われている。
ハーブティーとして使われることも多く、主な効用は「口内炎の緩和」「のどの痛み」「膀胱炎(予防)」などである。
また、近縁種のウスベニタチアオイの根から採れるデンプンは、マシュマロの原料としても有名である。
英名はhollyhock(ホーリーホック)と言い、これは葉がセイヨウヒイラギ(ホーリー)に似ていることと、
茎の節がくるぶしのように節くれ立っていること(ホック)から来たもの。
hollyが "holy" (聖なる~という接頭辞)に通じるということで、十字軍がシリア近辺からヨーロッパに持ち帰ったことと
関連付けて「聖地の花」という意味が込められている、とされることもあるが、これは俗説である。
ちなみに「水戸ホーリーホック」というサッカーチームがあるが、この由来も水戸徳川家の「葵の御紋」からとされている。
ただしこれも前述のように、タチアオイとフタバアオイを混同して・・・
いや、これ以上ツッコむのは水戸市民の名誉のために止めておこう。
例えばフルール・ド・リス(ユリの紋章)の図案が実はアヤメ(アイリス)だったりとか、
アカシアとニセアカシア(ハリエンジュ)が今でも混同されていて、ハリエンジュの蜜を「アカシア蜂蜜」と称して売っていたりとか
古今東西、勘違いがそのまま定着するという例も枚挙に暇がないわけで。。。
この花の花弁の付け根には粘着性があり、北海道など一部の地域では、ちぎった花びらを2つに開いて額や鼻に付け、
鶏の真似をするような子供の遊びが定着していて、このことからそれらの地域では「コケコッコ花」と呼ばれることがある。
(筆者の育った地域では残念ながらそういった風習はなかったため、未確認だが)
ゲーム内で実装された彼女が持つ武器が鶏冠の形を模しているのも、この俗称から来ているものと思われる。
タチアオイの花言葉は「大望」「野心」「豊かな実り」「気高く威厳に満ちた美」など。
これは前述のように、スラっと高く伸びた茎に大きな花を咲かせる様子から連想されたものと思われる。
花は同じアオイ科のハイビスカスにも似ていて、色鮮やかで大輪の花が背の高い草に次々に咲く様は、
まさに「気高く威厳に満ちた」印象で人目を引き付けるもの。
また「葵(アオイ)」という名前の由来は諸説あるが、一説には「あふひ(仰う日)」から、
日に向かって咲くという意味とも言われている。
ゲーム内の彼女が気高く淑やかであろうとしながらも、隠し切れない元気っ子属性を併せ持つ様子なのは
こんな名前の由来が影響しているのかもしれない。
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