マツ のバックアップ(No.11)

我は海の子白浪の　さわぐいそべの松原に
煙たなびくとまやこそ　我がなつかしき住家なれ。

裸子植物マツ科マツ属の植物の総称である。
マツ属の自然分布は北半球の熱帯から北極圏と、針葉樹としては最も広い範囲に分布する。
これは温度の適性が広いことが一因であり、他にも乾燥や塩害にも強いことが知られている。

日本では、土壌の塩分が多く植物には厳しい環境の海岸沿いにクロマツが生え、伐採後のはげ山では真っ先にアカマツが成長することで知られる。
このような生命力の強さと松脂を多く含み燃えやすいことから、古くから薪炭材として用いられてきた身近な樹木である。

ところが、マツは生命力が強い一方で極相林（同じ気候条件でずっと樹種が変わらない森林）にはなりにくく、マツの落ち葉が堆積して土壌が富栄養化し、ナラやカシのような陰樹が生えてくると姿を消してしまうことで知られる。
現在の日本では燃料として松の枝葉が使われることは無くなり、マツの落ち葉を拾う人もいなくなったためマツ林の土壌が富栄養化し、マツクイムシなどの被害もあって急速にマツ林の荒廃が進んでいる。
ちなみに、マツタケが「高級品」になったのもこのためで、過去には日本国内でも松茸列車と呼ばれる松茸を満載した貨物列車が走るほど大量に採れ、庶民の秋の味覚として親しまれていた。
（一方で燃料事情の厳しい北朝鮮でマツタケが大量に採れるというのも理解できる・・・）

マツは冬でも青々とした葉を付けるため不老長寿の象徴とされ、同じく冬でも青い竹、冬に花を咲かせる梅と合わせて中国では「歳寒三友」、日本では「松竹梅」と呼ばれおめでたい樹木とされる。
また、魔除けや神が降りてくる樹木としても珍重され、正月に家の門に飾る門松には神を出迎えるという意味がある。

マツは盆栽として鑑賞用にも用いられる。そもそも盆栽の目的は「自然の風景を植木鉢の中に切り取って作り出す」ということであるが、日本においてマツは白砂青松の海辺の風景など多くの自然景観を作り出す樹木であるため、マツは盆栽用の樹木として特に珍重される。
老人臭い趣味と思われがちな盆栽だが、今や海外でも注目を集め「Bonsai」は英単語にもなっている。

昔から日本人の生活に密接にかかわってきたマツは、サクラやナデシコと並び「和」を代表する花騎士であると言える。

睦月（一月）の花札「松」
一月の花札のモチーフは「松（まつ）」。
そしてもう一つの象徴が「鶴（つる）」です。
鶴もまた松と同じく縁起の良いものとされ、千年生きる鶴と万年生きる亀をあわせて鶴亀として長寿を祝う象徴として扱われています。
松と鶴、二つの縁起物をあわせた一月の花札はもっているだけでも幸運を呼びそうな感じです。

「松に鶴」は慣用句として似つかわしい様子として知られています。
日本画の題材や、屏風絵や掛け軸などのモチーフとしても多く用いられており、比較的目にすることが多い組み合わせです。

しかし実際には鶴は決して松に止まることはないようです。
鶴が好むのは、主に田圃などの湿地帯か湖沼。釧路湿原は特に有名です。
確認されている鶴の、１種類（アフリカに生息するカンムリヅル類）を除く、
ほぼ全て鶴が木に止まることも、まして営巣することはないようです。

それではなぜ、「松に鶴」が定番の組み合わせになったかというと、これは実は中国の言い伝えから来ていると考えられています。
中国では古来より、松も鶴も不老長寿の象徴として、亀とともに好まれてきました。
（「鶴は千年、亀は万年」というのも中国の古い言い伝えが由来です）
このことから、中国画の世界では吉祥図案として『松鶴長春』というモチーフが広く使われるようになりました。
長春というのは長春花＝庚申薔薇のことで、一年に何度も花を付ける庚申薔薇が「人生のうちで何度も良い時期を迎えられる」という意味に例えられて、やはり中国では好まれる花の１つです。
この長春花と松と鶴を組み合わせて縁起物としたのが『松鶴長春』という絵のモチーフで、これが日本にも伝わり、やがて松と鶴は日本でも定番の組み合わせとして広く認識されるようになったものです。
ちなみに本場中国の『松鶴長春』は主に夫婦の長寿円満を願うものとされ、二羽の鶴が松の木と庚申薔薇の近くに佇む様子を描いたものが多いです。（とは言え日本の花札「松に鶴」のように1羽の鶴だけが描かれたものもあります）