トウガラシは、分類上はナス科トウガラシ属(Capsicum)の総称であり、ほとんどが一年草である。中南米を原産とし、世界各地で栽培されている。
果実はカプサイシンによる強い辛味を持ち、辛いものの代表格としてお馴染み。世界各地の料理で香辛料として古くから利用されている。
ペルーやメキシコの遺跡調査によると、紀元前8,000年頃には既にトウガラシを利用していた痕跡があり、紀元前1,500年頃には栽培化が完了していたとされる。
代表的な種はC. annuumであり、その栽培品種にはタカノツメやハラペーニョなど馴染み深い名前も多い。
そのほかにも、ハバネロやジョロキアなどの激辛品種を多数生み出しているC. chinense、
タバスコの原料であるC. frutescens(キダチトウガラシ)などの品種があり、辛さや風味も様々である。
トウガラシの辛さは、野生動物に食べられることを避けるためのものと考えられており、実際ほとんどの動物はトウガラシを食べようとはしない。
しかし鳥類だけは例外で、不思議な事に彼らはトウガラシの辛さを感じないため、どんなに辛くても平気で食べることができる。
歯もなく、単純な消化器官しか持たない鳥類にのみ食べられることで、トウガラシはより確実な種子散布を図っているものと考えられる。
…そのせいでまさか人類とかいう変態に目をつけられることになるなんて、夢にも思わなかったのである。
辛さばかりが注目されがちなトウガラシだが、一方で全く辛くないトウガラシも存在する。
シシトウ、ピーマン、パプリカなどの野菜は、すべてC. annuumの栽培品種、すなわちタカノツメやハラペーニョの姉妹といえる。
これは意外な事実かもしれないが、改めてよく見てみると、ほら、確かにトウガラシに似ているでしょう?形とか、色とか、切り口とか。
トウガラシのカプサイシン含有量は生育環境により大きく変化し、一般に暑いほど増加し、涼しいと減少する。なるほどタイ料理やインド料理が辛いわけである。
ピーマンなどの甘味品種は、トウガラシが冷涼な気候に適応する過程で遺伝子に変異が生じ、カプサイシン生成能力を失ったものと考えられている。
尚、ハバネロにも交配によって生まれた「辛くないハバネロ」があるらしい。
ピーマン、パプリカはカプサイシン生成能力を完全に失っているが、シシトウにはまだ残っており、
生育環境などによって急に覚醒することがあるため、たまにすごく辛いのが混ざっていてびっくりさせられる。
覚醒の条件ははっきりとは判明してないが、水不足や高温などでストレスがかかったり、単為結果(受粉せずに果実を作ること)したり、辛味品種のトウガラシと交雑したりすると、辛くなりやすいとされる。
ちなみに、単為結果したシシトウは種が少ないので、外見や触った感じなどである程度判別できる。先が尖ったシシトウも、強いストレス下で育った可能性が高い。
とは言っても、見た目が明らかに歪なシシトウは流通過程ではじかれてしまうので、そういった個体が商品の中から見つかることは稀なのだが。
また、実は辛いシシトウは熟していないものであり熟したシシトウは甘いらしい。そもそも青いシシトウはすべて未熟果であり、完熟すると真っ赤になる。ピーマンも同様。
完熟シシトウ、ピーマン等が流通することはほとんどないので、興味のある団長は家庭菜園で挑戦してみるのも面白いかもしれない。
ただし「辛かったぞゴルァ」という報告も多数あるので、やはり環境次第でどうとでもなるようだ。レッツロシアンシシトウ!
香辛料にとどまらず、トウガラシには様々な利用法がある。
昔からよく知られている方法が、米びつにタカノツメを入れておくというもので、防虫、抗菌の効果がある。某アイドル集団も過去にトウガラシを使った天然農薬を作成していた。
カプサイシンは粘膜に付着すると激しい痛みを与えるが、後遺症をほとんど残さないため、催涙スプレーの主成分として、市販品や警察の装備などにも使用されている。
ハバネロ元ネタ解説内のドラゴンズ・ブレスについての記述で触れたように、トウガラシは医薬品としても利用されている。
温湿布や軟膏などに含まれるトウガラシチンキは、患部の血行を促進することにより、筋肉痛や凍傷などの治療、育毛などに効果がある。
また、カプサイシンには痛覚を刺激する一方で、痛覚を麻痺させもするという一見奇妙な性質があり、鎮痛剤や局所麻酔薬として応用する研究が進められている。
トウガラシの中には観賞用として栽培される品種もあり、白く儚い花や、鮮やかな色の果実は見た目にも美しい。
伝統的な品種にゴシキトウガラシ(五色唐辛子)と呼ばれるC. annuumの栽培品種があり、白、黄、赤、橙、紫など様々な色の実をつけるのが特徴。
観賞用トウガラシにも食用に負けないぐらい個性豊かな品種がたくさんあり、食べるのとはまた違った楽しみ方ができるだろう。
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