ダチュラ(Datura、「ダツラ」とも書かれる)は、ナス科チョウセンアサガオ属の植物群。
ただし「ダチュラ」と英名の「エンジェル(ズ)トランペット」は別属の植物にも使われることがあるので注意(後述)。
幻覚を引き起こす性質から、仏が天上より来迎する際に現れるという花「曼陀羅華(まんだらげ)」に例えられたり、
中毒者を錯乱させることから「キチガイナスビ」の別名もある。
なお、チョウセンアサガオ(Datura metel)がもっとも名が知られているがこの種は丸葉であり、
花騎士ダチュラの背景イラストは葉に鋸歯が入っているので、
モデルとなった種はシロバナヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium)あたりだろう。
古来、アメリカ大陸や熱帯アジアで強毒草として名高く、
またその中毒成分を厳密な調製のもと使用することで薬草としても用いられてきた。
誤って摂取すると瞳孔の散大(瞳の中心の黒目が広がり、周囲の虹彩が著しく小さくなる。このキャラクターの目もそれっぽい)
が起こり、全身の筋肉が弛緩、重症時には昏睡に至る。
また、意識障害やせん妄(幻覚や幻聴)を引き起こすことでも知られており、
過去の記憶や自らの願望につき動かされて無自覚な行動を取ってしまう場合がある
(そして、中毒から回復してもその間の記憶を失っているような場合も)。
「夢の中」「あなたを酔わせる」といった花言葉は、こうした毒性に基づくものだろう。
その性質から自白剤として使われた歴史もある(もっとも強毒草なので、取り調べ対象が死んでも構わんといった使い方だが…)。
薬用としては、正しく処方すれば鎮痛薬・麻酔薬として機能する。
現代でも身近なところだと、佐藤製薬の鼻炎薬「ストナリニ」に「ダツラエキス」として配合されている。
歴史的には、明確な診療記録の残る世界初の全身麻酔手術を成功させた江戸時代の医師・華岡青洲(1760~1835)が
開発した麻酔薬「通仙散」の主成分として知られる。
現代では麻酔として用いられることはないが、日本麻酔科学会は青洲の功績にちなみ、
会の紋章にチョウセンアサガオの花を用いている(参照)。
夏から秋にかけ、同じナス科のアサガオに似た白~紫色のラッパ型の花を咲かせるが、
つる性植物ではなく1~2mの高さで自立するのでアサガオとの見分けは容易。
日本では、薬用として導入された複数の種が屋外の荒れ地で野生化しているが、
ことごとく強毒性の種ばかりであり、草の汁が目などに飛んだだけでも中毒を起こし得るので、
見つけてもうかつにいじくらないのが吉である。
太い根っこや、鋭いトゲの密生した丸い実からゴボウと誤認しての誤食事故もしばしば発生している。
「トリップできるらしい」との聞きかじりからチョウセンアサガオの種を仲間と食べて集団中毒しただの、
チョウセンアサガオを台木にナスを接ぎ木して(なぜそれを選んだ…)成ったナスを食べたら中っただの、
まさに「生兵法ケガのもと」な事例も残されている。素人の手に負える薬毒ではないということだろう。
なお、園芸店で「ダチュラ」「エンジェル(ズ)トランペット」の名で売られている植物は、
別属の近縁種であるキダチチョウセンアサガオ(Brugmansia suaveolens)であることも多い。
下向きにクリーム色やオレンジ色の三角コーンみたいな大きな花が咲くアレである。
こちらは、赤石路代の漫画『エンジェル・トランペット』のタイトルになっているほか、
吉田秋生の漫画『BANANA FISH』に登場する薬物「バナナ・フィッシュ」はこの属の植物から精製されたものという設定。
ちなみにチョウセンアサガオは基本的に上向きに花が咲くのに対し、キダチチョウセンアサガオは下向きに咲くので見分けは容易。
|