くちなしの白い花 お前のような花だった
アカネ科クチナシ属の常緑低木。日本を始め、台湾、中国、インドシナ半島など、東アジアの亜熱帯地域に広く分布する。
クチナシという名前の由来は諸説あるが、よく言われるのが、果実が熟しても割れない、つまり口が開かないことから「口無し」とする説。
転じて、物静かで淑やかな女性というイメージと結び付けられることも多い、が・・・これより先は言わぬが花、か。
その一方で「嫁の口がなくなる」、つまり結婚できな・・・アッハイ、なんでもありません。
梅雨頃に咲く白い花は、甘い芳香をもつことで好まれ、春のジンチョウゲ(沈丁花)、秋のキンモクセイとともに三大香木のひとつに数えられる。
更に冬のロウバイ(蝋梅)を加えて四大香木と言ったりもするらしいが、香木ってビャクダンとか木材のことじゃね・・・?
基本種は6枚の花弁を持つ一重咲きだが、園芸品種には八重咲きのものもあり、まるで白いバラのような姿が人気だが、香りは弱い。
10-11月頃にできる橙色の果実は、クロチンというサフランと同じ黄色色素を多く含んでおり、
古くから食品や衣類の着色に利用されているほか、「山梔子(サンシシ)」という生薬にもなる。
このクチナシで染めた色(厳密には、これにベニバナの赤を少し重ね染めした色)は、昔から梔子色(くちなしいろ)と呼ばれ、
「口無し」と掛けて「謂はぬ色」という表現することもあり、古くは和歌のモチーフとしても好まれた。
この叙情的表現を効果的に用いた、実際奥ゆかしいハイクとしては、次のようなものが残されている。ポエット!
ここのへに あらで八重咲く 山吹の いはぬ色をば 知る人ぞなし ―― 円融天皇(古今和歌集)
耳なしの 山のくちなし えてしがな 思ひの色の 下染めにせむ ―― 詠み人知らず(古今和歌集)
山吹の 花色衣 主や誰 問へど答へず くちなしにして ―― 素性法師(新古今和歌集)
いかにせん 言はぬ色なる 花なれば 心のうちを 知る人もなし ―― 狭衣物語
寒さにやや弱いが、他は丈夫な植物であり、花や実を楽しむために庭木として栽培されることが多い。
注意しなければならないのは、スズメガの仲間のオオスカシバ君。幼虫がクチナシの葉や果実を好んでもぐもぐする。
非常に食欲旺盛であり、鉢植えサイズのクチナシなどはあっという間に丸裸にされてしまうこともあるとか。
蛾マニアの間ではふわふわもこもこでかわいいと人気のオオスカシバ君だが、クチナシにとっては天敵とも言える存在である。
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