ワルナスビ のバックアップ(No.37)

咲けよ華 華 罪の根を張って
咲けよ華 華 絶望の芽がでるよ

ワルナスビ(悪茄子、Solanum carolinense)はアメリカを原産地とするナス目ナス科ナス属の多年草。
英名はキャロライナホースネトル。ゲーム内での英名表記は「ナイトシェード」だが、これはナス科植物の一派を指す言葉。
その名の通りナスビに似た白い花を咲かせ、季節が過ぎると黄色いプチトマトのような実を付けるのだが…。

その正体は史上最悪の外来種とも言える悪名高き存在。

「悪」を名前に持つこの植物はまず全身に鋭く細かな棘を生やしており、触れたものを傷付ける。
増殖力については少しの種からあっという間に根を張って広がる上に、棘が痛いからと芝刈り機などで茎・根・葉を刻んでしまえばそれらから発芽し更に増えていく。
その増殖力はミントやアイビーを軽く上回るレベル。なんだよお前。
そう聞いて「そんなに増えるなら食ってやろう！」と思った団長もいるかもしれないが、残念ながらこいつは全草に有毒成分のソラニンを持つ。
誤食した家畜や、綺麗な実に興味を持って口に入れた子供が中毒を起こす事故もちらほら報告されている。いやなんだよお前。
その上カメムシやニジュウヤホシテントウ等の作物を食い荒らす害虫の温床にもなる。なんなんだよお前。
更に除草剤に対する耐性まで持っているとの話。マジでなんなんだよお前。
ちなみにワルナスビの種自体も耐久力が凄く、環境が整った瞬間に100年近く経過した種からも新鮮な芽が生えてきたとか。もう意味わかんねえよお前。

悪意を体現したようなヤバさ故にアメリカでは「ソドムのリンゴ」だの「悪魔のトマト」だの言われているレベル。
(ちなみにソドムのリンゴの名を持つ植物は別に存在する。)
「ワルナスビ」との身も蓋もない和名を与えたのは、日本植物学界の大権威、かの牧野富太郎博士その人である。
彼は命名者であると同時に被害者でもあり、当時まだ日本に移入してきたばかりで、その危険度も認知されていなかったであろうこの植物を、
物珍しさから自宅の畑に植えてしまい、それはもう散々な目に遭われたそうである。その様子は随筆集「植物一日一題」（青空文庫）にて詳しく述懐されている。
自然の草花をこよなく愛し、一生涯に渡り情熱を注ぎ続けた牧野博士をして「花も実もなんら観るに足らないヤクザものだから仕方ない」
「この始末の悪い草、何にも利用のない害草に悪るナスビとは打ってつけた佳名であると思っている」などとdisっているあたり、もはやどうしようもない。
煮ても焼いても食えない、それどころか存在するだけで様々な害を成すとてつもないバケモノ植物である。

駆除に手こずって長年ワルナスビが繁殖した土地には「連作障害」が発生する。
連作障害とは、同じ土地で特定の作物を育て続けることで、土壌のバランスが偏ったり、病原菌が増殖するなどして、その作物が育ちにくくなる現象をいう。
「なんだ、弱点あるなら勝てるじゃん」とでも思ったか？甘ぇんだよ。
こいつの連作障害は、自身ではなく他のナス科植物の生育を阻害するというわけのわからないもの。
つまり一度ワルナスビが繁殖したが最後、その土地では向こう数年はナスやトマトなどがまるで育たなくなってしまうのである。核兵器かお前は。
補足すると、そもそもナス科は互いに連作障害を起こしやすく、この問題はワルナスビに限ったものというわけではないのだが、
いかんせんワルナスビ自身が連作障害ぐらいでは怯みもしないので、死なない自爆テロ犯みたいな迷惑極まりない性質となってしまっているのである。
なお、この性質を逆手に取り、ワルナスビを台木として他のナス科の植物を接木することで、連作障害に強い個体を作るという超技術がある。まさかの汚名返上である。
まるで暗黒の力を完全に制御して覚醒したダークヒーローのような胸熱展開。怪盗ナイトシェードの明日はどっちだ。
ただし、台木が暴走すると地下茎からただのワルナスビがにょきにょき生えてくるという諸刃の剣でもある。
制御に瑕疵あらば大暴れというのは悪の力の面目躍如と言ったところか。
そんなところがまた禁忌っぽくて良いですよねアイビーさん。

ちょっとポンコツな怪盗娘として描かれる花騎士ワルナスビだが、
彼女の元ネタはポンコツどころか悪意の結晶とも言える厄介極まりない植物なのだ。

ただし、彼女が猛威を振るうのは「人の手により程よく整備された土地」に限る。
森林や草原では基本的にここまで爆発的な脅威とはならない。だって在来種外来種関係なく、逞しすぎる自然の植物達がシノギを削り合っているから。
（ヤクザだろうが、野獣の中に放り込まれればドスやチャカが何の足しになろうか）
なのでそういった場所のワルナスビは言う程暴れない。本当にひっそりと生えているレベルである。
逆に言えば人間によって雑草が排除され、養分たっぷりの土壌に恵まれる畑や花壇は、彼女にとっては予告状を送るに相応しい大豪邸とも言えるのだ。