アシ のバックアップ(No.34)

人間は一本の葦（あし）にすぎない。自然の中でもっとも弱いものである。だが、それは考える葦である。
ブレーズ・パスカル『パンセ』（戸口民也訳）

アシ（葦、学名Phragmites australis）は、イネ科ヨシ属の多年草。
世界中の温帯から亜寒帯の水辺に群集して生える、いわゆる河原の植物として有名。
茎は中空になっており、葦笛や葦簀（よしず）として用いられることもある。
木管楽器の音源となるリード（reed）は英語でアシのことであり、その一種であるダンチク（別名：葦竹）で作られている。

なお、「アシ」という名は「悪し」に通じ縁起が悪いということで、「良し」に通じる「ヨシ」と呼ばれることも多い。
花言葉にはそこまで不吉なものはないはずなのに、キャラクエで「不幸を招く」と忌み嫌われていたというのは、この語感が影響していると思われる。
FKGでは「不快な言葉が入る草花」はサオトメバナやカズラなど他の名前に変えられるケースが見られる。
だがアシの場合は「人間は考える葦（あし）である」という有名な成句があるため、あえて「あし」の語を用いられたものと思われる。
実際、花騎士アシは「オズの魔法使い」における「知恵を求める案山子」モチーフで作られているため、「考える葦」のモチーフは絶対に外せないものと言える。
また、他者との触れ合いで相手が傷つくことをを恐れるのは旧約聖書（イザヤ書）の
「見よ、今、お前はエジプトという、あの折れた葦の杖を頼みにしているが、それは、寄りかかる者の手を刺し通すだけだ」という一節も踏まえていると思われる。

知恵を欲する案山子は野原にたたずむ鳥を追い払うのをやめ、
より賢い脳を探し始めました。

「オズの魔法使い」側の元ネタは「知恵を求める案山子」。
広い畑の真ん中、ずっと立ち続け鳥を追い払うことに飽き飽きしていた案山子で、旅に出ようとするドロシーを見て興味深げに話しかけてきた。
彼は自分の手を固定する木の棒を取ってほしいと頼み、晴れて自由の身になれた事に大喜びしつつも、己が愚かであることを儚んでいた。
そこでドロシーは何でも夢を叶えてくれる魔法使いオズの話を彼に教え、彼もまた夢を叶えてもらうためにドロシーの旅についていく事にした。
彼が求めるものは「知恵を生んでくれる脳みそ」。藁ではなく、血の通った脳を得て賢くなりたい夢を語った。

エメラルドの都にてオズと出会えた彼は当初の目的通り「脳みそ」を求めた。
しかし、オズは魔法使いではなくペテン師。彼に本物の脳みそは与えられないので、頭を満たす藁の代わりに牛の飼料を混ぜた物を入れた。
「思慮(飼料)深い脳をあげた、さあこれで君は賢くなれるぞ」。それは明らかな嘘であったが、愚かであれど幸せ者の案山子は深く考えず大喜びした。

【ギリシャ神話・イソップ物語の概要】

　むかしむかし、太陽神アポロンと牧神パンは竪琴と笛、どちらの音楽が優れているか競うことになりました。
　アポロンの竪琴が素晴らしかったと神々は言いましたが、王様ミダスだけは「パンの笛の方が素晴らしい」と主張しました。
　怒ったアポロンは王様の耳をロバの耳に変えてしまいました。王様はそれが恥ずかしくて帽子や頭巾で耳を隠すようになりました。
　しかし床屋で散髪することになり、床屋にロバの耳を知られてしまいます。
　秘密を守るようにと王様からは口止めされますが、床屋はおかしかったり苦しくて病気になったりで誰かに話したくてなりません。
　我慢できなくなった床屋は森の中だったり河原だったりに穴を掘り、その底に向かって「王様の耳はロバの耳！」と秘密を叫び、元通りに埋めてスッキリしました。
　ところが埋めた場所から生えてきたのはアシちゃん。
　アシちゃんは風に揺れるたびに「おうさまのみみはロバのみみ～」と囁くようになり、王様の秘密は国中に知れ渡ってしまいました。
　床屋が言いふらしたと思った王様は床屋を捕まえますが、言いふらしたのはアシちゃんだったと知りました。
　恥ずかしくなった王様は床屋を許して釈放し、ロバの耳を晒して生きていきました。

知ってるお話とちょっと違う？後日譚も含めてバリエーションは様々あるみたいです。
　・井戸に秘密を叫んだら町中の井戸に繋がっていてバレてしまった。
　・掘った穴の周りに自生していたアシちゃんが聞いていた。
　・羊飼いが生えてきたアシちゃんで笛を作ったら音色が「ｵｳｻﾏﾉﾐﾐﾊﾛﾊﾞﾉﾐﾐ-」でバレた。
　・バラすかどうか実は床屋は試されていた。
　・王様は処刑するつもりで床屋を捕らえるが、王子様が助けてくれた。
　・そもそも王様ではなく王子様がロバの耳だった。醜い耳だからこそ弱い人の気持ちもわかるし大きい耳だから民衆の声がよく聴こえる！　等々…

教訓も様々で、
　・人の口に戸は立てられない。壁に耳あり。
　・隠し事はバレるし拡散されるもの。だから寛容になりなさい。
　・秘密を口外しちゃダメよ。約束は守りましょうね。
　・支配層は民衆の意見にもっと耳を傾けろ。　　等々…
伝えたい教訓や心情、時代によって話し手が筋や結末を変化させてきたのでしょう。

ちなみに「牧神パンの笛」はアシを材質とした「葦笛」（パンパイプ・パンフルート）とも。

花言葉の「神の信頼」「音楽」「憂愁」「不謹慎」「後悔」に繋がりそうなお話でした。