弾けてひしゃげた鞘ひとつ
溢れる想いが 四方に散った
漢字で書くと「片喰」・・・まるで曰くつきの妖刀の銘である。
カタバミ科カタバミ属の多年草で、ハート型の三葉が特徴。春に黄色い小さな花を咲かせる。
ハート型の葉は夜間や天候の悪い時は、中心線で折り畳まれてぴったりと閉じるという面白い性質があり、
この様子がまるで葉の片側半分が食べられてしまったように見えることから「片喰み」と呼んだのが名の由来。
非常に強健な植物で、街中ではアスファルトの裂け目などから顔を出していることもあり、どこにでも見かけられる野草である。
近縁種では帰化植物のおっ勃ちオッタチカタバミ、紫色の花を咲かせるムラサキカタバミやイモカタバミなどもよく目にする。
花が咲いていないと、全体的な雰囲気からシロツメクサ、いわゆるクローバーと間違われることも多いが、
シロツメクサの葉は丸く、白い筋が表れるのが特徴なので、知っていれば区別は容易である。
クローバーといえば四つ葉のクローバーが幸運の象徴として知られるが、カタバミにも四つ葉やそれ以上の変異体が発生することがある。
四つ葉のカタバミに幸運の意味があるのかは不明だが、一説によると環境耐性の高いカタバミは、シロツメクサより変異を生じにくいとも。
可愛らしい花ではあるのだが、その尋常でない繁殖力とどこにでも生える旺盛な生命力のため、一般には厄介な雑草として認知されており、
Google検索で「カタバミ」を調べようとすると、検索候補に「カタバミ 駆除」が真っ先に挙げられるほどである。
地下には球根と太い主根、地上には匍匐茎で、広く深く繁殖する雑草のお手本のような植物であり、特に芝生にとっての天敵。
カタバミには「酢漿草」の別名もあるように、葉を齧ると酸っぱい。これは全草にシュウ酸カルシウムを含むためで、
害虫や動物に食べられることを防ぐための策であるとされる。繁殖力だけが雑草の生存戦略ではないのである。
更に特筆すべきは、成熟した果実が振動を感知すると、機械的な機構により種子を射出することである。その射程は1mを超える。
詳しい解説は是非こちらの動画をご覧頂きたい。野草の備える脅威のメカニズムに驚かれることだろう。
このハイテク機構により、完全に駆除したと思っていても、離れた地点からゲリラ的に生えてくることがあるので、
広域に渡る除草剤の絨毯爆撃で潜伏中のゲリラ勢力まで根絶やしにしない限り、完全駆除は困難である。
そんな困ったちゃんなカタバミだが、悪い面ばかりというわけでもなく、
花が大きく美しい品種は、学名をそのまま読んだ「オキザリス」の名で園芸用として栽培されることもある。
同じカタバミだから丈夫なはずなんだけど、どういうわけか普通に枯れるんだなこれが・・・。
いかに雑草と呼ばれる植物でも、我々が目にするのは運良く根付いたごく一部の個体であるということを認識させられる。
生薬としても利用され、消炎・殺菌・解毒などの作用があり、虫さされや皮膚病に絞り汁を塗ると良いとされる。
日本のメジャーな家紋のひとつに「酢漿草紋」がある。カタバミの繁殖力に子孫繁栄を掛けているわけである。
均整のとれたハート型の三葉は分かりやすいデザインで、古くは鎌倉時代から使われ続けている定番の紋である。
有名どころでは戦国大名の長宗我部氏や酒井氏、剣豪の上泉信綱などが酢漿草紋を採用しており、
七つ酢漿草や剣酢漿草など、そのバリエーションも豊富である。
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