ヨウラクボタン のバックアップ(No.13)

ヨウラクボタンとは、ケシ科ケマンソウ属の宿根草、ケマンソウ(学名：Lamprocapnos spectabilis)の別名。本種のみでケマンソウ属を構成する。
図鑑での分類はケマンソウ科となっているが、これは旧分類に基づくもの。現在はケシ科ケマンソウ亜科となっている。
ケマンソウ亜科には「高山植物の女王」と称されるコマクサも含まれており、ヨウラクボタンもかつてはコマクサ属(Dicentra)に分類されていた。
そのため、未だに分類をコマクサ属とし、旧学名のDicentra spactabilisで呼ぶ資料もかなり多い。この旧学名は現在ではシノニムとして扱われる。

原産地は中国東北部から朝鮮半島。森林や谷間などの湿った半日陰を好んで自生する。
4-6月頃、弓なりに伸ばした茎の下に吊り下げるように、ピンク色のハート型の花が十数個連なって咲く。
ちょうど彼女が武器として使っている釣り竿が、実際の花の付き方をよく表している。タイツリソウ（タイツ理想鯛釣草）の別名にも納得。
花の構造も独特で面白いのだが、文章で伝えようにも冗長で分かりにくくなるばかりなので、実物を見る機会があればよく観察してみると良いだろう。
英名では花の形を心臓から血の滴る様子に例えて"bleeding heart"と呼ぶ。また上下をひっくり返すと"lady in a bath"にも見えるとか。

「『ボタン』ってのは、わかる・・・スゲーよくわかる。だが『ヨウラク』って部分はどういうことだああ～～～～っ！？」とは、きっと多くの団長が抱いた疑問であろう。
「瓔珞」とは仏具の一種で、形状は様々だが、仏壇の中に吊るすジャラジャラしたやつと理解しておけばよいだろう。お堂の中に吊るすもっと大きいやつとかもある。
「瓔」には宝玉、「珞」には纏うという意味があり、本来は宝石や貴金属を編んだ古代インドの装飾品であった。
菩薩像などが身につけている豪華なネックレスのようなものが、装飾品としての瓔珞にあたる。
ケマンソウというのも「華鬘」という仏具が由来になっている。花鳥や天女を透かし彫りした板で、これも起源は装飾品。仏堂の梁や欄間などに吊り下げて使う。
いずれも吊り下げるものということで、何故この名前が付いたのかご納得いただけるかと思う。
なお「ボタン」とつくのは、深く裂ける葉の形がボタンの葉に似ているためである。

ケシ科というだけあって、全草が有毒である。プロトピン、コブチシン、ビククリンなど、中枢神経系に作用するアルカロイドを持つ。
過剰摂取すると酒に酔ったようになり、嘔吐、痙攣、呼吸不全、心臓麻痺などの重篤な症状を引き起こす可能性があるが、適量であれば優れた鎮痛剤となる。
ヨウラクボタンに近縁なキケマン属の塊茎を乾燥させたものは、生薬の「延胡索（えんごさく）」として知られており、胃痛や胸焼けに処方される。
延胡索を原料とする「安中散」は胃腸薬としてスタンダードな漢方方剤であり、市販の漢方胃腸薬には安中散の配合をベースに調剤したものも多い。